第11話第十一夜

本日は何事もなく…。

目覚めた僕らは全員連なって街へと向かっていた。


「今日は平和ね」


夜見が何気なしに言葉を口にして僕と焔と氷菓は適当に頷いていた。


「そう?街にはこんなに迷える子供が居るっていうのに?」


聖の反論の様な言葉に夜見は適当に肩を竦める。


「こんなことは毎日のことじゃない。争いが無いだけマシよ」


「そうかもだけど…迷える子供が居るっていうのが平和じゃないでしょ?」


「でも見なさいよ。皆活き活きとした顔している」


「でも…現実から目を背けているとしか思えないわ」


「皆が皆…聖のように強いんじゃないのよ。

それに標だって逃げてきたようなものよ?

標に対しても言っているような言葉だと思うけど?

それは本意なの?」


「いえ…不本意ね…。

ごめんなさい。

標を傷つけるために吐いた言葉じゃないのよ。

許して」


「いえいえ。僕は本当に逃げてきたんで。

でも今は居場所を見つけて幸せですから…

気にしていませんよ」


「そう。標のように皆が居場所を見つけて幸せなら良いんだけどね…」


「きっと皆見つかると思いますよ。

僕を見つけてくれて救ってくれた人達が居たように…」


「そうね…」


そこからも僕らは街を散策しながら適当に過ごしていくのであった。


時計が天辺を迎える頃に僕らは廃ビルに戻ってくる。


「今日もなにかして遊ぶんですか?」


氷菓が僕らに問いかけてきて…

夜見は少しだけ疲れた表情を浮かべて首を左右に振る。


「私は少し休む。皆は遊んでいて」


「そうですか…」


焔と氷菓は少しだけ残念そうな表情を浮かべて俯いていた。


「最近少しだけ眠りが浅いのよ。なんでかしら…」


「標が添い寝でもしてあげたら?なんてね」


聖が誂うような冗談を口にして軽く笑って見せる。

僕も受け流すように微笑みで応えた。

けれど…

当の本人である夜見は少しだけ期待するような視線を僕に送ってきて…


「え?」


そんな情けない一文字が口から漏れてしまう。


「お願いできる?」


夜見からしっかりとした言葉で提案されてしまう。

それをジョークと捉えるか本心と捉えるか…

僕にはわからないでいた。


「え?え?私もジョークで言ったんだよ?」


聖は少しだけ焦ったような表情で発言を取り消すとでも言うように手を左右に振って見せる。


だが…

どういう成り行きか…

本当に不意なことでわからなかったが…

僕と夜見は僕の寝室に向かうことになる。

今の状況でも夜見の部屋には入れてもらえない。

僕と夜見は僕の寝室のベッドで横になる。

彼女は僕のことを抱き枕のようにして抱きしめると…

次第に深い眠りについていくのであった。



今日を境に僕らの関係性が変化しようとしていた。

けれど…

それを現状で理解している人間は誰一人として居ないのであった。

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