第10話第十夜

寝ることのない焔と氷菓はこの廃ビルを探検…

もとい警備のような真似をしてくれている。

夜見のアジトだと知っている裏の人間は立ち入ることもない。

しかしながら肝試し的に一般人が紛れ込む可能性がある。

怖いもの見たさの一般人を追い払うのが彼女らの仕事になりつつあった。

他にも朝の間に受付の様な役割まで担ってくれているようだ。

夜見に用がある人の話を聞いて重大なのかどうかまで判断してくれている。

そして目を覚ました夜見にすぐに報告に行く。

彼女らは献身的に夜見に仕えているようで…

夜見にも重宝されている存在である。

そんな彼女らが本日珍しく慌てている様子だった…。



「夜見さん!大変です!」


焔が慌てた様子で起きてきた夜見に早速口を開く。

最近では彼女らも夜見に完全に懐いている。

などと感じながら僕は欠伸をして適当に話の経緯を耳にしていた。


「何?起きたばかりなんだけど?」


「でも!大変なんです!」


普段はクールな氷菓まで慌てふためいている。

きっと大変な出来事が起きたのだろうな。

などと思っていると…。


「加藤楽助なる人物が隣駅の奴らにカツアゲされたって…!」


「………」


僕と夜見は顔を見合わせると嘆息するようにため息を吐いた。


「また?」


「またって…以前にもあったのですか?」


焔が食い気味に質問をして夜見はどうしようもなく頷いて応える。

僕も同じ様に何度か頷いて応えると彼女らは困った表情を浮かべている。


「そもそも…加藤楽助って誰です?

重要人物なんですか?」


氷菓がおずおずと口を開くと僕と夜見は再び顔を見合わせた。


「んんー。なんて言えば良いのか…

まぁ重要人物の一人だよ…」


夜見が仕方なく口を開いて僕も同じ様に頷く。


「え?じゃあ何でそんなに冷静なんです?」


「まぁ…以前にもあったし…そういう役回りというか…」


「どういうことです?」


二人の質問に夜見は幾度となく僕に視線を寄越す。

答えるべきなのか。

彼女は僕に助言を求めているのかもしれない。

しかしながら僕はそれほど事情を知っているわけではないのだ。

ただ楽助が重要人物であるのは以前の件で知っている。

というよりも知らずには居られなかった。

僕が助けに行くのは友人として当たり前だ。

たまり場に最初に受け入れてくれたのは楽助だ。

だから助けに行くのは当然だ。

しかしながら…

夜見が完全武装して部下まで引き連れてきたのには違和感を覚えた。

そして僕は尋ねたのだ…

彼の重要性についてを…。



「楽助は…簡単に言うと私の弟なのよ」


夜見は初日の夜にゲームをしながら僕に事情を説明してくれた。


「普段は街を見張ってくれていて…

面倒事が起きない程度に隣駅の様子を見に行かせているんだけどね…

毎回面倒を起こすのよ…

なんでかわからないけれど…

楽助は絡まれやすくて…

本当は強いし一人で対処できるんだけどさ…

あの子は非暴力主義なのよ。

本当に手が掛かる子なの…」


「そうなんですね…

だから楽助を助けに行った僕をだって言ってくれるんですね…」


「そういうわけじゃないんだけどさ…」


「え?」


「その理由はいつか言うよ…」



そして現在に戻る。


「楽助のことは今回部下に任せるよ。標もそれで良い?」


「はい。大丈夫です。それに楽助は一人でもどうにか出来るんですよね?」


僕の言葉を受けた夜見はそれに頷くと何事もなかったように大きな欠伸を一つするとスマホを手にする。

そのまま部下に連絡を入れているようで…

僕らは本日も平和に夜に生きる。

テレビゲームやボドゲなどをして有意義な時間を仲間たちと共に過ごすのであった。



朝になる頃。

僕らはそれぞれの自室に向かう。

本日も満たされた気分になり眠りにつこうとして…

しかしながら僕は楽助の事が気になって眠れなかった。

自室を出て廃ビルを後にする。

廃ビルから僕が出ていく時…

焔と氷菓に声を掛けられる。


「何処行くの?」


「夜見さんに報告案件?」


しかしながら僕は彼女らに微笑んで首を左右に振る。

そのままきっと楽助が入院しているであろう病院へと急ぐのであった。



現在は朝なため面会時間内だった。

個室の病室のドアをノックすると…。


「はーい。空いてますよー」


楽助の呑気な声が聞こえてきて僕は入室する。


「何があった?大丈夫か?」


友人である楽助に笑顔を向けると彼はくすぐったそうな表情を浮かべる。


「姉貴を馬鹿にしている奴らが居て…」


「また姉ちゃん思いで絡みに行ったのか?」


「絡んだっていうか…取り消せって言っただけで…」


「それでそんな目にあっているんだから…」


「そうだけど…許せなかったんだ」


「大丈夫。僕らは夜見さんの偉大さを理解しているから。そうだろ?」


「そうだな…姉ちゃんは幸せそうか?」


「あぁ。仲間も順調に増えて。遊び仲間も沢山だ」


「そうか。苦しそうな表情を浮かべることは?」


「どうだろう。一人の時はどんな顔をしているか…わからない」


「そうか…良かったら標が支えになってくれよ」


「………」


「姉ちゃんもそれを望んでいる」


「………」


「とりあえずお見舞いに来てくれてありがとうな」


「うん。あんまり無茶するなよ。夜見さんも心配している」


「そうだな。気をつける」


「じゃあ僕はこれから寝るから。ここに一人で来たこと…誰にも言うなよ」


「あぁ。じゃあ今ここで話した内容は二人の秘密な」


「じゃあ。またな」


そうして僕は何事もなく廃ビルに戻っていく。

戻った僕に焔と氷菓は再び声を掛けてくる。


「何してきたの?」


「やっぱり夜見さんに報告?」


しかしながら僕は先程と同じ様に微笑んで応えると首を左右に振った。

そして自室に戻るとベッドで横になる。

本日の僕の朝はこれにて終わるのであった。



寝ている最中に誰かからキスをされているような…

そんな錯覚を覚えたのだが…

きっと気の所為だ。

眠くて疲れている僕が見た幻覚だろう。


ではまた…

いざ、次の夜へ!

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