第9話第九夜

「まずは自己紹介からどうぞ」


夜見は廃ビルに件の二人を連れて行くとソファに腰掛けて口を開く。


「ちょっと待ってくれよ!俺達の喧嘩だぞ!?

あんたに何の関係があるんだよ!」


赤髪で男勝りの女性は先程炎を出していた方だ。

今にも夜見に食って掛かりそうな態度だったが…

夜見の漆黒の瞳で睨まれるとビクつくように黙った。


火之焔ひのほむらです…」


赤髪の方がどうにかして自己紹介をすると水色髪の女性の方もクールに自己紹介した。


氷堂氷菓ひょうどうひょうかです」


彼女らは自己紹介をして夜見に深く頭を下げた。


「私はここを仕切っている黒井夜見。そっちは白井聖。

それでこっちが私達の。七切標。

そんな人間に怪我をさせて…ただで済むと思っている?」


「………すみません」


「申し訳ありません…」


二人は謝罪の言葉を口にすると深く頭を下げる。


「どの様な処置を…」


夜見が怖い顔をしていたが僕は無傷なので話に割って入った。


「夜見さん。彼女らも仲間にしたら良いじゃないですか。

どうやら二人は戦闘能力が高そうですし…

入れて損は無いと思いますよ?

それに夜見さんや聖さんに逆らうとは思えませんし…ね?」


僕は二人に視線を向ける。

彼女らは気まずい表情を浮かべると一つ静かに頷いた。


「どうですか?二人もきっと行くところが無くてここにたどり着いたんです。

だから僕を救ってくれた時の様に…」


「もう…分かったわよ。部屋は余っているし…好きに使うと良いわ」


夜見は呆れた様に嘆息すると聖に視線を向けていた。


「私も別に構わないけど…二人が良いのであれば…」


僕と夜見は再び頷くと彼女らは顔を見合わせている。


「どうですか?二人共。僕らの仲間になりませんか?」


「仲間って…何をすれば…?」


「私達…氷神と炎神の家系で…」


二人はどうにか説明するように自らの種族?について話をしてくれる。


「炎の神の末裔なんです…それなので炎を自在に操れます。

家族の中で俺は出来損ないで…

家から逃げてきたんです…」


「私も同じ様なものです。氷の神の末裔で…

家族の中で出来損ない…

逃げるようにここへ…」


「仲間になるとは街の抑止力になること。

特に何かをすることはない。

そしてここに住むということは…

私達の遊び相手になるってこと」


「それだけ…ですか?」


「それ以上のことを要求されたり…」


僕らはそれに首を左右に振って応える。

彼女らは顔を見合わせると表情を明るくさせる。


「では…お世話になります」


二人は同じ様な言葉を口にして…

そうして二人一気に仲間が増えるのであった。



焔と氷菓は別に知り合いではなかったようだ。

しかしながらパッと見た瞬間に相手のことを好敵手だと理解したようだ。

それ故の会ってすぐに喧嘩腰だったらしい。

そんな彼女らの直感が僕には少しだけ羨ましくて…

少しだけ可笑しくてならなかった。

相手のことを運命の人と理解するように…

好敵手に出会うと言うのは人生でも稀で貴重な体験ではないだろうか。

そして彼女らはそんな相手と一つ屋根の下で暮らすことが決定している。

特別仲良くする必要はないが…

出来れば喧嘩をしないように努めてもらいたい。

何故ならば…

ここで喧嘩などをしたら夜見と聖が黙っていないからだ。

彼女らの能力は未知数だが…

きっと強い…

何かしらの能力を持ち合わせていると思われた。

そんな気がしているだけで…

それを見たことは一度もないのだが…




「ちょっと。あんたの作った料理…熱すぎるし辛いのよ」


夕方に目を覚ますと早速氷菓と焔が口喧嘩をしている。


「なんだ?火野家に代々伝わる伝統料理にケチつけるのか!?」


「これが伝統料理?馬鹿言わないで」


「なんだと!?じゃあお前の作る料理はさぞ立派なんだな!?」


「当然じゃない。仕方ないから特別に作ってあげる」


「上等だ!絶対に美味しいなんて言ってやらない!」


「覚悟しておきなさい」


そうして氷菓と焔は僕らよりも先に起きていたらしく食材の買い出しなどを行ってくれていたようだ。

夜見と聖も次第に起きてくるとこの料理バトルを見守っていた。


「なになに?いきなり何が始まっているの?」


聖は僕に問いかけてきてことのあらましを言って聞かせた。


「なるほどね。それで?

これが問題の熱くて辛い料理?」


「そうです。一口食べてみたんですが…」


「え?なに?なに?」


「悶絶する辛さでしたよ…」


「えぇ…じゃあ私はやめておくわね」


「それが良いと思いますよ」


「夜見は?珍しく眠そうにしているじゃない」


聖は夜見へと話を振るが…

彼女は椅子にもたれ掛かったまま船を漕いでいる。


「確かに珍しいですね…夜見さんが寝起き悪いなんて…」


「寝起きかどうかなんてわからないじゃない。単純に寝てないのかもよ?」


「どうしてですか?」


「それは…同居人が一気に二人も増えたからじゃない?」


「なるほど…色々と考えることも多いんですかね?」


「そうだと思うよ。私達で出来ることはフォローしようね」


それに深く頷いて応えると僕らはそれからも料理バトルを眺めているのであった。



結果から言って…

氷菓の作った料理を焔は美味しい美味しいと連呼しながら食べていた。

僕と聖と夜見もそれを食すことを許可されて…

そのあまりの美味しさに言葉を失うのであった。


そこから僕らは複数人でプレイできるボードゲームなどをして夜に生きるのであった。


朝が来ればまた皆で眠る。

そう思っていた…。


「私達は眠らないでも生きていける体質なんです」


氷菓が少しだけ気まずそうな表情を浮かべて口を開いた。


「そうなんです。俺達は眠るという行為を奪われたというか…

始めから備わってないんですよ」


「どうして…?それって苦しくない?」


僕の言葉を受け取った彼女らは苦笑とともに首を左右に振る。


「神の末裔ですからね…眠るという行動を取れないんですよ。

いつ何処で神に祈っている人がいるかもわからない。

そんな時に神が寝ていて…

願いが叶わなかったら…

そんなことを不安に思った神が眠りを拒んだというところから…

私達末裔にも眠ると言う習慣がないんです」


「なるほど…でも眠くなったりするでしょ?」


「全く無い。今まで寝たこともない。寝転ぶことはあっても…眠れない…」


彼女らの言葉にどの様に応えるべきか悩んでいた。


「そんな顔しないでください。遠慮なく寝てくださいね」


僕は何も言えずに自室に戻るとベッドに潜り込む。

そして彼女らのことを考えながら…

どうしようもなく抗いようのない深い眠りに誘われるのであった。



夜中に熱くて…寒くて…目を覚ますと…

僕のベッドの両端に氷菓と焔が悪戯をするように潜り込んでいた。

僕が目を覚ますと彼女らは嬉しそうにきゃきゃっと笑って部屋を出ていく。

部屋を出ていく彼女らに僕は口を開く。


「夜見さんの部屋には絶対に無断で入るなよー…」


「分かってるよー」


そんな言葉が返ってきて僕は再び深い眠りについたのであった。


いざ、次の夜へ!

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