第8話第八夜

「不穏な気配を感じるんだけど?」


リビングに全員が顔を出すと夜見は聖へと視線を向ける。


「えっと…何が?」


意味がわからないとでも言うような表情を浮かべている聖は夜見の視線をしっかりと真っ直ぐに受け止めていた。


「標に気があるんじゃない?」


「どうしてそうなるのよ…」


聖は少しだけ困ったような表情を浮かべると今度は夜見から視線をそらす。

その意味が僕には理解できないでいたのだが…。


「やっぱりそうなのね」


夜見はふぅとため息を吐くと呆れたような表情を浮かべていた。


「まぁ別に良いけどね。私達だって付き合っているわけじゃないし。

付き合っていたとしても他に恋人が居て構わないわ」


夜見の爆弾発言に僕らは明らかに驚いたような表情を浮かべていた。


「私の倫理観が人と同じじゃないことは理解しているわ。

でも私が良いと言っているんだから標には好きに生きてほしいわね」


「何を勝手に話を進めているのよ…私はそんなつもりじゃ…」


「はいはい。私には聖の気持ちが分かるから。大丈夫よ」


「………」


聖はそこで黙ると困ったような表情を浮かべていた。


「確かに…昨日のあの対応は嬉しかったけど…」


「そうでしょうね。簡単に恋に落ちても可笑しくはないわね」


「………夜見はどうして恋に落ちたの?」


「ん?それはね…」


そうして夜見は聖に耳打ちするようにして理由を話しているようだった。

僕には聞こえないように彼女らは女性同士の秘密の会話をしていた。


「えぇ!そんな理由なの!?」


「自分だって大した理由じゃないでしょ?」


「そうだけど…」


「まぁ恋に落ちるのなんて実は簡単で単純な理由だったりするわよね」


「そうみたいね。私達が自分で証明しているようなものだものね…」


「そういうこと。あまり深く考えずに…二人のものにしちゃいましょう」


夜見と聖は僕に許可を取ることもなく勝手に話を進めている。

僕は少しだけ困った表情を浮かべると適当にハニカム。


「とりあえず今日の見回りに行かないとね」


「私達もついて行ったほうが良い?」


「うん。出来たらついてきて。人数が多いほうが対処できることが増える」


「標も一緒に行くでしょ?」


「そうですね。女性だけだと心配なので…」


「私を心配する必要は無いわよ。私に手を出すような人は居ないから」


「それでも…」


「分かっているわよ。ありがとう」


夜見と聖と僕の三人での会話が終わると僕らは身支度を整えて家を出る。

そうして抑止のためにたまり場へと顔を出すと…。



「先に手を出したのは貴女ですからね?後悔しないでくださいませ」



冷え切った表情を浮かべて今にも喧嘩が始まりそうな状況が出来上がっていた。


「ガン付けてきたのはそっちだろ!?覚悟できているな?」


二人の女性がにらみ合っている。

今にも喧嘩が始まろうとしていた。


僕らの抑止が効かない。

そんな相手だと瞬時に理解する。

それなのに僕の身体は勝手に動いて二人の間に立って喧嘩を止めようとしていた。


「やめてください!ここで喧嘩しないでください!」


二人の間で喧嘩を抑制しようとすると…

右からは冷気が左からは熱気が飛ばされてくる。


「アツっ…いや…サムっ…」


炎と氷を同時にぶつけられているような感覚がして僕は彼女らに目を向ける。

彼女らの手からは炎と氷が掌から具現化されていた。


「え…え…え?」


僕の何とも言えない言葉が口から漏れると夜見と聖が僕らの下へと走ってやってくる。


「標に手を出すとはいい度胸ね」


夜見は明らかにキレているようだった。


「私が癒やします」


聖は僕の顔面に何かしらの癒やしの力を施してくれる。

傷ついた場所が回復していくような感覚を覚えて…

僕はこの世に魔法にも似た何かがあることを理解した。


「私達の標を傷付けたこと…」


聖も相手を睨みつけると今にも攻撃態勢を取っている。


「大丈夫です。僕は大丈夫ですから。それよりも二人に事情を聞きましょう。

この辺では見ない顔の二人ですから…」


「標が言うなら…」


「じゃあ二人はついてきなさい。私はここを仕切っている黒井夜見。

しっかりと話しを聞かせてもらうわよ」


二人は完全にやらかしてしまった表情を浮かべて僕らの廃ビルへとついてくるのであった。




そして次回。

二人の事情聴取の夜が始まる。



いざ、次の夜へ!

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