第7話第七夜

「聞き忘れていたんですが…バイトとかしたほうが良いですよね?」


夕方に目を覚ました僕は黒井夜見と対面して問いかけていた。


「なんで?」


夜見は意味がわからないとでも言うように首を傾げてぽかんとした表情を浮かべている。


「ここに住ませてもらえて養ってもらっているからでしょ?

標は少しぐらい稼いだほうが良いって思っているのよ。

人の善意がわからないの?」


白井聖が先んじて答えを口にしてくれて夜見はウンウンと何度か頷く。


「そうなの?」


夜見は僕に視線を向けると逆質問をしてくる。


「はい。聖さんの言うとおりです」


「ふぅーん。しなくていいけどね。お金なら沢山あるし」


「標はそういう事を言っているんじゃないと思うけど?

最低限のお金を納めないと貴女とフェアじゃないと思っているんじゃない?」


聖の言葉に僕は同意するようにして頷く。


な相手だからって何もかも甘えて良いのかって良心が訴えかけているのよ」


聖は追随するようにして言葉を口にする。

しかしながら夜見は首を左右に振って応える。


「必要ない。私の傍にいてくれたらそれでいい。

負い目を感じる必要もない。

標を必要としているのは私の方なんだから」


「ですが…」


「相手がそう言っているんだから良いんじゃない?

もちろん私も働かなくていいわよね?

私だって遊び相手なんだから」


「構わない。二人を養うぐらいの余裕は全然ある」


「だってさ。標はいい子だね。ちゃんと礼儀のようなものを心得ている」


「そんなんじゃないですけど…」


「悪魔に借りを作るのは怖いわよね」


「そういうつもりでも…」


「まぁでも夜見が良いと言っているんだから…

今のところは甘えておきましょう」


「そうですね…改めてお世話になります」


「うん。構わない」


そこで話が一時中断して僕らはテーブルの上のマグカップに手を伸ばした。

僕はココアを飲んでおり夜見は紅茶だった。

聖は意外にもコーヒーを飲んでおり僕らはそれぞれ別々の飲み物を嗜んでいる。


「聖の下着類でも買いに行こうか」


夜見のぶっこむような発言で僕は飲んでいたココアを変な場所に飲み込んでしまい咳き込む。

彼女らは僕のその様な様子を目にして目を細めている。


「私の下着じゃ聖とサイズが違いすぎるからね」


夜見は自らの標準サイズの胸を触って口を開く。

そして聖のあまりにも大きな双丘を目にした夜見は少しだけ首を傾げていた。


「何カップ?」


「言うわけ無いでしょ!一人で買いに行ってくるわよ!」


「ちょっと待って。私達も出かけたいから一緒に行こう」


「分かったけど…下着売り場にはついてこないでよ?

標に見られたくないから…」


「見ないですよ…」


「本当?さっきの反応見るに…」


「絶対に見ません!そんな人間じゃないです!」


「そう。分かっているけど。誂ってごめんね」


「良いですけど…。それで?夜見さんは何を買いたいんですか?」


「ん?それは行ってからのお楽しみってことで」


「そうですか。じゃあ早速準備してきます」


そうして僕らは各々が身支度を整えて外に出る準備を完了させるのであった。



廃ビルを出ると夜見の運転で僕らは大型デパートへと向けて車を走らせる。

有料駐車場に車を停めると僕らは夜のデパートへと入っていく。

聖は女性服売り場の階へと向かい僕と夜見は食料品売場へと向かっていた。


「何を買うんですか?」


僕の質問に夜見はふふっと笑って見せると酒類コーナーへと向かう。


「聖が仲間になったからね。二人で祝杯」


「ずるいですよ…僕はまだ飲めないのに」


「分かっているよ。だから標にも高級ジュース買ってあげる。

それに美味しい食事も買って帰ろう」


「ありがとうございます。今日はパーティですか?」


「そういうこと。聖にも楽しんでもらいたいから」


「そうですね。僕らの生活に馴染んでくれたら良いですね」


「ふふっ。そうだね」


夜見は美しく微笑むと高級そうなお酒と食事を沢山購入していた。

僕の食べたいものを夜見は尋ねてくれて僕は遠慮なくそれに答えていた。

しばらくすると聖から連絡が入り僕はスマホを手にしてそれを見ていた。


「買い物終わったよ。何処の階にいる?」


グループチャットで送られてきたそれに僕は返事をする。


「地下にいます。もう買い物も終わるので一階で待っていてください」


「わかった。入口の近くにいるね」


「了解です」


簡単な返事をすると僕らは買い物を終えて一階へと向かった。

聖は紙袋を一つ持っておりそれを大事そうに抱えている。

僕は想像しないようにそれを目に入れないようにしていた。

気のない態度を努めていると聖と夜見は目を細めて僕に視線を向けている。


「なんですか?」


慌てたように口を開くと彼女らは声を揃えて口を開く。


「「童貞臭い…」」


その言葉に僕は軽くショックのようなものを受けると軽く項垂れてハニカムのであった。




帰宅してきた僕らはテーブルに買ってきた食事を広げていた。

夜見と聖は高級そうなワインを嗜んでおり僕は高級ジュースを飲んでいる。


「それでは新たな仲間に!乾杯!」


夜見はいつも以上にテンション高めに乾杯の音頭を取ると僕らはグラスを合わせて食事を開始する。

そこから僕らは夜中を通してはしゃいでおり朝方になるまで三人で出来るボードゲームなどをして過ごす。

途中で酔ってしまった聖が僕に甘えるように肩にもたれ掛かってきて…

僕はかなりの動揺の表情を浮かべていたのだが…

聖はまるでその様なつもりではないらしい。

彼女は眠いだけで…

たまたま隣に腰掛けていた僕の肩を利用しているだけだった。

対面の席で今でもお酒を嗜んでいる夜見は僕らを見てスマホを取り出す。

そのまま僕らの事を写真に収めると悪い表情を浮かべていた。


「何に使うつもりですか?」


「ん?起きたら聖に見せる。どんな顔するか…一緒に見よう」


夜見は悪い表情を浮かべて美しく微笑んでいる。

僕は何とも言えない表情で苦笑すると聖が起きるまでその態勢をキープしているのであった。


「あ…ごめん。寝ちゃった…」


朝方に目を覚ました聖は僕の肩から離れると何事もなかったような表情を浮かべている。


「じゃあ僕は自室に向かいますね」


「うん。私も早くベッド欲しい…」


「そうですね。今日にでも夜見さんにお願いしてみましょう」


「そうだね…はわぁ〜おやすみ…」


聖は大きな欠伸をするとソファに横になって眠るようだった。

僕も自室に戻ってベッドで横になる。

本日もこうして何事もなく終わりを迎えようとしている。

今日も僕らの幸福的な日常は過ぎていき…

本日の夜に向かうのであった。




「標の肩にもたれ掛かって…どれぐらいあの姿勢でいてくれたんだろう…

夜見は先に寝たっていうのに…

私のこと起こしもしないで…

ずっとあの姿勢でいてくれたの…?

え…?なにこれ…?」


聖は胸の中で何とも言えない気持ちを抱きながら…

それに目を背けるようにしてさっさと眠りにつくのであった。



いざ、次の夜へ!

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