第5話第五夜

夕方に目覚めてすぐに身支度を整える。

夜見の隣に立っていても不自然ではない格好をして僕らは廃ビルを出た。

いつの間にか夜見が用意してくれていた服に着替えて僕らは大型家具店へと向かったのであった。



「まずベッドは確実に必要でしょ…」


夜見は僕に向けて言うわけでもなく独り言のようにしてブツブツと言葉を口にしていた。


「クローゼットは別室にあるから…

そこを一緒に使うとして…

後必要なものは食器とか?」


夜見は先に寝具のコーナーへと向かうと上等なベッドと寝具一式を購入してくれる。

搬送されるまでしばらく時間がかかると思ったのだが…。


「私の部下に運ばせる。組み立てもさせる」


夜見は店員と知り合いなのかその様な交渉をしていた。


「でしたらお値段を勉強させて頂きます」


店員はかしこまった態度でヘコヘコとしていた。


「構わない。お金が無いわけじゃないんだ。

それにこんなことで君に借りを作りたくない。

と言うよりも私は誰にも借りなんて作りたくないだけなんだ。

気分を害したなら謝る。

私の信条ってだけの話なんだ。

部下でもない相手に頼りたくもないし使いたくもない。

分かってくれると助かるよ」


「申し訳ございません。出過ぎた真似をしました」


店員は深く謝罪をすると夜見はそれをサラリと受け流して軽く手を持ち上げて応える。


「今から部下に連絡を入れる。倉庫の担当者に話をつけておいて欲しい」


「わかりました。今すぐに連絡を入れておきます」


「助かるよ。ではまだ買い物をするのでここで失礼」


「はい。お買い上げ誠にありがとうございました」


寝具売り場の担当である男性は僕らに深く頭を下げる。

僕と夜見はそれを受け取ると階下に降りていく。

食器類などを買い揃えると僕らは会計を済ませて大型家具店を後にするのであった。



「それにしても…部下?に任せて大丈夫なんですか?」


「何が?」


夜見は僕の言いたいことが理解できないようで首を傾げていた。

僕も適切な言葉が思い浮かばずにうーんと軽く唸っていた。


「なんというか…借りを作りたくないんですよね?」


「そうだな。確かにそう言った」


「部下に頼むということは借りを作るってことでは?」


「いいや。それは違う。部下は例外だ」


「そうなんですね。親しい間柄なんですか?」


「まぁ…そうだな。部下と言えど姉弟みたいなものだよ」


「そうなんですね。では仲が良いと?」


「それはどうだろうな。奴らは私を崇拝しているようなものだ」


「崇拝?」


「あぁ。いずれ分かるし…いつか説明するよ」


「そうですか。じゃあ今は聞かないでおきます」


「そうしてくれると助かるよ」


「そう言えば…僕も夜見さんには借りを作るなって言われたんですが…

今の状況って借り以外の何物でもないですよね?

僕って大丈夫なんですか?」


「それも問題ない。標は私のだからな」


「何度か口にしていると思うんですが…特別ってなんですか?」


「それもいずれな…」


「そうですか。じゃあ僕は何も心配しないで良いと?」


「あぁ。何も心配しないでいい。いつまでも私の傍にいろ」


「わかりました…」


夜見の運転で僕らは車内にいる間その様な会話をして過ごしていた。

彼女はたまり場まで車を走らせると様子を確認して再び車を走らせる。

何処か晴れやかな表情を浮かべる夜見を見て僕は首を傾げざるを得ない。


「どうしたんです?嬉しそうですが…」


「あぁ。何と言うか…また新たにこの地に逃げてきた若者が見えてね。

ここに人が増えるのはいいことだ」


「いいことなんですか?」


「そう。私にとっては都合の良いことだ」


「どういった意味で?」


「それは部下候補が増えるのはいいことだろ?」


「僕も部下候補ですか?」


「違う。何度言っているだろ?なんだ」


「そうですか…」


僕はその何とも言えない甘美な響きがする言葉をしっかりと受け取りながらしばらく車内で揺られていた。


僕らはデパ地下で食事を買い込むと廃ビルへと戻っていく。

僕と夜見が食事をしている間に彼女の部下が廃ビルを訪れて僕の部屋でベッドを組み立ててくれる。

彼らに感謝の言葉を口にするのだが…。

彼らは僕に深く頭を下げるだけで口を利いてはくれなかった。

それを不思議に思っていると…。


「崇拝している相手のな相手だからね。

かしこまって口も利けないんだよ。

分かってあげて」


「そうですか…別に僕は何も偉くないんですけどね…」


「ふふっ。それでも彼らにとっては標も崇拝の対象なんだよ」


「なんだかくすぐったいですね」


「すぐに慣れるさ。さて。今日は何をしようか?」


「じゃあ今日は協力型のゲームで遊びましょう」


「おぉ!いいな。今までは一人で遊んでいたから。

憧れていたんだ」


「そうですか。それならばよかったです」


「早速遊ぼう」


そうして僕と夜見は深夜から朝方まで協力型のゲームをして過ごすのであった。



「じゃあ約束は忘れずにね?」


「分かっています。おやすみなさい」


僕と夜見は日が昇る頃にお互いの寝室へと向かった。

僕は新品のベッドに横になって静かな眠りへと誘われるのであった。




深い眠りの中で僕は夢らしきものを見ていた。


「ダメですよ!悪魔に身を委ねるだなんて!」


何処の誰かもわからない見目麗しい女性が僕を説教するように口を開く。


「悪魔?何のことだ?」


僕は出会って間もない相手に簡単に説教を食らわす彼女を不信に思う。


「今一緒にいる相手ですよ!」


「えっと…夜見さんのこと?」


「そちらでの名前は知りません!ですが一緒に暮らしている相手は悪魔です!」


「何を言っているのか…さっぱりだよ」


「では起きたら確認してみてください!」


「貴女は悪魔ですか?って?」


「そうです!」


「正直に答える悪魔はいないと思うけど?」


「良いから尋ねてみてください!そして私が今から助けに向かいます!」


そこで女性との会話が終了して僕は目を覚ます。

目を開けると夜見は僕のベッドの縁に腰掛けており美しい笑みを浮かべている。


「夜見さんは…悪魔ですか?」


どうしてだろうか…

僕は素直に直接的な言葉で質問をしていた。


「そうだよ。夢の中で天使に会ったね?」


「天使…ですか…。誰かには会いましたが…」


「何と言っていた?」


「夜見さんが悪魔で…それを尋ねろと…

そして自分が今から助けに行くと…」


「そうか…本当に厄介なやつだな…」


夜見はそう言って僕の手を握る。


「逃げ…」


夜見の言葉は第三者の侵入によって阻まれることになる。


「助けに来ましたよ!」


夢の中で出会った見目麗しい女性が部屋に侵入してきて…。



今夜の僕らはどうなってしまうのだろうか…。


いざ、騒がしくなりそうな今夜へ!

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