第3話第三夜

「明日も街に顔を出すか?」


朝方のことだった。

黒井夜見からチャットが届いて僕は返信をすることとなる。


「はい。二十時頃にはそちらに着くと思います」


「そうか。分かった。加藤のところにお見舞いに行くんだが一緒にどうだ?」


「是非。僕は行こうと思っていたので」


「分かった。その後、夕食を一緒に取ろう」


「本当にいいんですか?」


「もちろんだ。楽しみにしておいて欲しい」


「はい。ではこれから寝ます。おやすみなさい」


「あぁ。おやすみ」


そこでチャットを終えた僕はスマホのアラームを十八時にセットして眠りにつくのであった。



不登校になり夜は外出する僕に両親は何も言わない。

呆れているのか諦めたのか。

僕には分からなかったが…

今の僕を特別だと必要だと思ってくれる人達がいる。

僕は蔑ろにされる空間にいるよりもそちらを大切にするべきだと思う。

本日も身支度を整えると家を出る。

最寄り駅から電車に乗り込んでサードプレイスであるたまり場へと向かうのであった。



「今着きました」


黒井夜見に連絡をいれると彼女は直ぐに返事を寄越す。


「分かった。私の住むビルに来てくれ」


「分かりました」


どういう意味なのか分からなかったが…

先日訪れた彼女の住んでいるであろう廃ビルへと足を運ぶ。


「お邪魔します」


インターホンを押して中に案内された僕は借りてきた猫のように小さくなっていた。


「今日は標にプレゼントがあるんだ」


「え…?どうしてですか?」


「ん?この間のお礼だ。

誰よりも早く一人で現場に向かった勇気を称えたいだけだよ。

もちろん受け取ってくれるだろ?」


「は…はい…」


彼女は何を企んでいるのか僕に高級そうなスーツを一式プレゼントしてくれる。


「え…こんなに高そうなもの…貰えません」


「いやいや。これは私のためでもあるんだ」


「どういうことでしょう?」


「私の隣にいる人間の身なりが整っていないと威厳が損なわれる」


「あぁー…そうなんですね?」


「そうだ。それにドレスコードのある場所に赴く場合もある。

だから一着ぐらい持っておけ」


「ありがとうございます。というよりも…僕を傍に置くつもりですか?」


「当然だ。少し調べたが…標の両親は既に君に無関心みたいだな」


「………はい…」


「だが大丈夫だ。私がいる。私は標を必要としている。

君は私にとってきっといつかになるよ。

これは私の嘘偽り無い本音だよ」


「嬉しいです…誰かに必要とされたことなんて…」


「そうか…辛かったな」


黒井夜見は僕を優しく抱きしめる。

彼女からは甘く心地の良い香りがして何処か心が安らいでいく。


「それじゃあ早速着替えてくれ。お見舞いにいくのにその格好はね…」


「わかりました。すぐに」


そうして僕は着替えを済ませると黒井夜見の車に乗り込んで加藤楽助が入院している病院へと急ぐ。


病院では黒井夜見が主導で話を進めていた。

僕が我先に相手に立ち向かったこと。

結果として黒井夜見の部下が全員を伸したこと。

事実をしっかりと伝えると加藤楽助は救われたような表情で微笑んだ。


「ありがとうな。標。お前を友人として誇りに思うよ」


そんな言葉をくすぐったそうに受け取った僕は病院を後にすることになる。

面会時間でも無いのに黒井夜見の顔パスでどうにか入れてもらっていたからだ。

話が済んだため僕らはすぐに病院を後にする。



この後は黒井夜見が予約していた焼肉屋に向かったのだ。

簡単に説明すると僕が今まで食べてきたお肉とは格段と違う何かが出てきたのだ。

それを一品一品頂き幸福感に浸っていた。


「標は私にとって駒の一つでもない。シマの少年Aでもない。

君は…私のになる。

それを直感的に理解できたんだ。

初めて私の部屋を訪れた時に…」


「それはどうしてでしょうか?」


「なんだろうな。女の勘ってやつか…ビビッときたんだ。

そして今回の件で私よりも先に動いていた。

これで確信した。

私よりも行動力があり仲間思い。

きっと私はこいつをいつまでも隣に置くんだって思ったよ」


「えっと…それは…ありがとうございます」


「あぁ。それで相談なんだが…」


「はい?」


「ファーストプレイスである家もセカンドプレイスである学校も機能していないんだろ?

だからサードプレイスであるたまり場に集まる。

だが私と一緒に住んでみないか?

そうしたらそこがファーストプレイスでベストプレイスになるかもしれないだろ?」


その魅力的な提案に僕はつばをごクリと飲み込んだ。


「良いんですか?甘えてしまって…」


「傍においていきたいと思っているのは私なんだ。構わない」


「では…甘えてみたいです」


「そうか。じゃあ早速今日から一緒に住むとしよう」


「あ…はい。よろしくお願いします」


そうして急遽僕は黒井夜見と同棲することとなる。

この悪魔的な美女と一つ屋根の下で生活を送ることが決定したのだ。

僕と黒井夜見の関係はここからどの様に発展していくのだろうか。

それは僕もまだ知らないし…

誰にもわからないことなのであった。



唯一人の悪魔を除いて…。

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