第2話第二夜

夜に逃げるようになってどれぐらいの月日が流れただろうか。

僕は夕方に目を覚ますと親の目を盗むようにして家を出る。

歩いて数分の最寄り駅に到着すると都内へと向けて電車に乗り込む。

ワイヤレスのイヤホンを両耳に装着して流行りの音楽を聞いて車内で揺られていた。

本日も仲間の集まる場所へと向けて僕は足を伸ばしていた。

ベストでは無いがベターな場所に向かって僕は電車に揺られていた。

自らの現状に不満や不安を抱きながら…

僕は今日もサードプレイスである場所へと向かう。

ファーストプレイスである自宅もセカンドプレイスである学校も既に機能していない。

逃げ場となったサードプレイスで本日も夜を過ごそうと決意するのであった。



電車に揺られて一時間もしない内に都内のサードプレイスへと到着した。


「よぉ。今日も来たんだな」


仲間の一人が僕を歓迎するように輪の中に迎え入れてくれる。

それに手を上げて応えるといつものように話が始まった。


「隣駅の…俺達と同じ様な奴らを知っているか?」


仲間の一人が唐突に口を開き僕らは首を傾げることになる。


「それが何だって言うの?」


女子の一人が口を開いて僕らも追随するように頷いて応えた。

仲間は少しだけ悩んだような表情を浮かべた後にどうにかして口を開いた。


「今いない仲間が…何ていうか…カツアゲやリンチまがいな事をされて病院送りにされたらしい」


それに僕らは無関心なわけではないのだが適当に頷くだけだった。

僕らに何かが出来るとは思えない。

しかしながらここで何もしないのは…

やっと出来た仲間に顔向けできない。

そんな事を思っていた。


「やられたのは誰?」


一人の女子が口を開いて仲間の名前を口にする。


「加藤…」


僕はその名前を耳にして背中にひやりとした汗が流れてくるのを感じる。

何故ならばこの輪の中に初めて僕を迎え入れてくれたのは他でもない。

加藤楽助かとうらくすけだったのだから…。


「僕…行ってくるよ…何が出来るかはわからないけれど…」


そんな言葉を残して頭に上っている血をどうにか静めようと専念していた。

こういう時こそクールにならなければならない。

仲間がやられても冷静に向き合うべきなんだ。

サードプレイスで出会った一人の仲間のためであろうと…

僕一人で向かうことになろうと…

自分のことでは立ち向かうことが出来なくとも…

加藤のためなら僕は向かう。


そうして隣駅の若者が屯している場所を訪れると僕は彼らに問いかけることになる。


「隣駅から来たんだ。今日だか昨日だか…その前だか。

僕らの仲間に危害を加えたのは誰だ?

そしてそれは事実か?」


喧嘩などしたことも無いひょろ長いだけの僕に彼らは気圧されたりしない。


「何だ?昨日の連れか?一人で報復ってか?」


相手はむしろ僕を挑発して嘲笑っているようだった。


「こいつもやっちまえば良い」


誰かが僕を見ながらその様な言葉を口にして周りが爆笑している。

覚悟を決めるようにファイティングポーズを取ろうとして…。

後ろの方から大きな足音が束になって聞こえてくる。

この場にいる若者は表情が青ざめ…。

僕は後ろを振り返る。


「私のシマの子を傷付けたのは君等で会っているかい?」


若者達は黒井夜見の後ろに控えているガタイの大きな男性たちを目にしてつばを飲み込んでいる。

この後、どうなるか…

彼らは理解しているのだろう。


「じゃあ後は任せるよ」


黒井夜見は後ろに控えていた男性たちに声を掛ける。

そのまま彼女は僕の下までやってくると嬉しそうに微笑んでくれる。


「加藤の為に動いてくれたのは七切標…君だけ?」


「はい…黒井さん達以外だとそうなりますね」


「そうか。加藤のためにありがとう。

何よりも私達よりも先に一人で行動に移してくれたこと…

本当に感謝する。

君は私にとってきっとな存在になるだろう。

今日は面倒事に巻き込んで済まない。

今度食事でも奢ろう。

連絡先を教えてくれるかい?」


「はい…恐縮です…」


そんな言葉しか口から出てこずに僕はポケットからスマホを取り出して連絡先を交換する。


「何が食べたい?」


「やっぱりお肉ですかね…」


「分かった。取って置きの場所を予約しておく。では今日はここで」


「はい。ありがとうございます」


別れの言葉を口にすると僕らの後ろで散々な目にあっている若者を尻目に僕は自分の居場所へと戻っていくのであった。


本日の夜も終わりを迎えようとしていた。

特別なことがあった一日がそろそろ終わり朝がやってくる。


いざ、次の夜へ!

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