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 天平てんぴょう芦花ろかさんの所属はオーサカ支部だが、その能力【転送】の利便性の高さから、結構な頻度で本部にいる。わたしはご本人から教えてもらうまで本部の所属だと思っていたぐらいだ。


「辞める!?」

「ま、まだ決めたわけじゃないんですけど……」


 親しみやすい先輩で、今日も「折り入ってご相談が」と送ったら「ほなら、いつものとこで」とこの場をセッティングしてくれた。いつものところとは、天平さん行きつけの中華料理屋だ。昔ながらの町中華を提供するが、麺類のメニューはない。店主の「うちはラーメン屋じゃねえ! 麺が食いたきゃ、ラーメン屋に行きな!」という謎のこだわりによって、オープンから現在まで麺類は提供せずに営業している。店名を、昇竜軒という。


「なんでまた。急やな」

「霜降さんから『辞めたければ、転職先を』って」

「ああ、あゆかぁ」


 天平さんは霜降さんと同期で、霜降さんのことはそのお名前にかすりもしていない『あゆ』と呼ぶ。由来を聞けば「浜崎あゆみに似とるやろ?」と答えられた。


 ちっとも似ていない。

 と、思うのは霜降さんに「ポニテのイメージが強すぎるからやな」というのが天平さんの見解だが、本当に似ていないと思う。でも、あゆの恋愛ソングを熱唱する霜降さんは見てみたい。


「霜降さんのあの言い方だと、わたしってほら、みなさんのような能力もないですし、単に作倉さんの好みだったから採用されたみたいな」


 あの後、わたしはわたしの顔をじっと観察してみた。霜降さんのように整っているようには思えなくて、秋月さんのような憎めなさもなく、かといって天平さんのように可愛らしいタイプ――でもない。容姿が優れていると褒められたのは、さっき霜降さんから言われたのが初めてだ。


 両親はいないが、周りに育ててくれる人たちはいた。わたしはわたしと似たような境遇の子どもたちが集められた『神影』の施設にいて、そこには男もいたし、女もいたし、わたしよりも年下の子も、年上の子もいたが、みんなが平等に扱われた。身体能力、思考力、論理力、などなど、すべての能力値は平均化され、抜きん出ている者、劣っている者は矯正される。


 全員が等しく幸福でなくてはならない。

 これが『神影』の目指す人間の在り方である。


「あゆは作倉さんのことを嫌っておるから、悪く言うんやろな」

「そうなんですか?」

「アンチ作倉派を増やしたいんやろ。気にせんでええよ」

「そんな、アンチ……」


 作倉さんに対して、特に不満はない。じっくり話をしたのは面接の時ぐらいだが、たまにエレベーターがいっしょになると「調子はどうですか?」と気に掛けてくれている。目が合えば――作倉さんは色の濃いサングラスをかけているので、おそらく目がという認識で――会釈するぐらいだ。上司と新人ならこのぐらいの関係性だろう。


「どうしても気になるんなら、あゆに言っとくで。っていうか、聖奈はサポートとしてよくやってるから、辞めなくてええやろ。なんか不満があるんなら、はやいうちに言ってな」

「せんぱぁい……!」

「この飯代は勉強代っつーこって」


 新しく入ったバイトの大学生の子が料理を運んでくる。天平さんは餃子とチャーハンにビール。わたしはユーリンチー定食にした。酒はあまり得意ではないので、注文していない。


「とは?」

「聖奈が払ってーな。給料日前で金ないねん」


 金がないと言った口にアルコールが注ぎ込まれて、みるみるうちに空のジョッキが完成した。それから「おかわり!」と追加の注文を入れる。


「わたしがですか!?」

「タダで相談に乗る先輩はおらんやろ」

「こういうときって、先輩が払うものではないのでしょうか」

「そんな法律はどこにもないんよ」


 今後別の人に相談しよう。そうしよう。

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