Case1
入社式。
学校の入学式や卒業式ほど格式張ったものではない。作倉さんが三分間ほど、要約してしまえば全くもって意味が見いだせない内容のない話をして、そのあとに
差し出がましいようだが、作倉さんと違ってハキハキと話す霜降さんはRSKで働くよりもそのルックスを活かした職業に就くべきだと思う。よっぽど何か理由があるのだろう。新人のわたしには、まだ、何もわからない。
「よろしくなの!」
式が終わって、その人はひまわりのような笑顔をわたしに向けてきた。黒髪ショートボブで、目がキラキラしている女の子。……女の子って言っても、たぶんわたしと同じぐらい。
わたしもそれ相応の人生経験を積んでいるので、一目で『この人とは仲良くなれなさそう』という人の見分けはつく。この人は『仲良くなれなさそう』なタイプだ。ひまわりは太陽にその顔を向けるもので、わたしは太陽ではない。
「
聞いてもいないのに名乗られてしまったから、答えてあげないと据わりがよくない。秋月さん。わたしの同期。おそらくは。着ているスーツの新品っぽさと着慣れていなさで判断している。
「
あんまりよろしくはしたくないが、これから同じ職場で働く仲間である。初手の印象は大事だ。ここは相手に悟られないようにそれっぽく適度な距離感で取り繕って、この場をやり過ごし、他の人と仲良くなろう。
「聖奈ちゃんは、どんな能力を持っているの?」
能力。
能力者保護法によれば『科学では証明できない不思議な力』を総じて“能力”としている。たいへん大雑把な括りだが、法律でそう定められており、わたしが働いていくRSKは能力者たちを取りまとめる我が国唯一の組織だ。
したがって、構成員に能力者は多い。たとえば、作倉さんは【予見】という能力をお持ちで、その人の過去や未来を視ることができる、らしい。
「持っていません」
能力者は多いが、全員がそうというわけではない。能力は『自らの身を守る力』でもあり、よっぽど窮地に追い込まれないと発現しないもの、とされている。のうのうと、のらりくらりと生きてきたわたしに、そんな大それた力はない。
「そうなの!?」
この反応を見る限り、秋月さんはなんらかの能力をお持ちなのだと思う。あまりにもおおげさに驚いたから周りがびっくりしている。わたしも顔をしかめてしまった。
「わたしは作倉さんにスカウトされたの。期待のエースなの!」
自慢か。自慢だな。どうだ、と言わんばかりに胸を張ってくる。すごいですね、と言ってあげるべきか。
「聖奈ちゃんはまだ能力者じゃないカモだけど、そのうちすごい能力に目覚めるかもしれないし、諦めたらそこで試合終了だし」
九死に一生のような出来事には遭遇したくない。できるかぎり、トラブルは避けていきたいものだ。わたしは平穏に生きていたいから、実はRSKに来るべき人間ではなかったのかもしれない。
頭の中でぐるぐるとしている。
完全週休二日制で、残業のない、そこまでヘビーではない業務内容の仕事を探していたはずだ。というか、能力者ではないわたしが対能力者のために駆り出されることは、まあ、ないだろう。秋月さんには悪いけれど、秋月さんみたいな人たちに最前線で戦ってもらって、わたしはオフィスでぬくぬくと事務仕事をこなしていきたい。
そう思っている。
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