塩漬けの歯車

秋乃晃

おしなべて地獄

∽開演

 落ちた。


 面接が終わって、一歩外に出てからのはそんなもので。まあ、次。わたしには次があるのだ。本命じゃあなかったし。次、次。


 などと思っていたら、採用通知が届いていた。


「ほあ」


 郵便受けに入っていた封筒の宛名を見て、間の抜けた声を出してしまう。誰にも聞かれていなくてよかった。聞かれていないはずだ。


 それから慌ててその日以降の面接のお約束を断ったり、身寄りのないわたしを育ててくれた『神影』の施設長に報告したり、いろいろあって、四月一日からわたしの『風車宗治を讃える会RSK』のメンバーとしての人生がスタートする。


 にしても、面接でのわたしは映画の話しかしていない。名を名乗って、それから、面接官でありRSKの代表者である作倉さくらすぐるさんに「最近観た映画の話をしてください」と言われたものだから、つい先週観たばかりの『オオカミ男』の出てくる映画の話をする。古い映画で、しかもタイトルはうろ覚えで、身振り手振りを交えてストーリーを語った。


 讃える会である。てっきり風車かざぐるま宗治そうじについて聞かれるものだと思い込んでいて、かつて我が国の首相の座に就いていた彼に関する資料を集めて、何を聞かれても答えられるように準備していた。


 が、実際には縁もゆかりもない『オオカミ男』の映画についてさんざん喋って、三十分ほど経ったところで「もういいですよ」と追い出されている。わたしについての質問――学生時代に打ち込んだものとか、採用されたらどのような仕事をしていきたいかとか――は一切なかった。映画の話をしただけの三十分。


 そりゃあ『落ちた』と思うわけですよ。

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