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「このノートパソコンは本当に軽いですね。持ち運びがとても便利そうです」

 笑う下総に俊樹は問いを投げる。「ぼくのパソコンがどうかしたんですか」


「先生、これを事件現場に凶器と一緒に持って行ったのではありませんか。WEB会議をするために」

「……」

「室内のどこかで――映像を見ていると、どうやらイスに座っておられるようですから、現場のリビングとかですかね。あなたはパソコンのセッティングを行いました。背景は実際のホテルの部屋の写真にして、アリバイの証拠となるよう、しっかり録画設定をして、何食わぬ顔で職員の方と会話を交わした」

 ここまでについてなにか、下総の話がいったん止まった。俊樹はゆっくりと口を開け、


「たしかに、理屈は通っていますね。ホテルをこっそり抜け出して、この新幹線に乗れば、ゆりの死亡推定時刻内に東京に着くことができる。推理としては面白いと思います。しかしね――」

 今度は俊樹が相手の目を睨みつけた。「今のはすべて、あなたの推測ですよね。理屈が通るからといって、それだけで僕を逮捕しようとするのは野蛮だ」


 下総は腕を組んで目を瞑る。反論はしてこない。


「警察はこれまでいくつも犯してきた過ちをまた繰り返そうというのですか。証拠なしに自白だけで事件を終わらせようとする、下総刑事、ぼくはあなたがそんなことをする人ではないと思っていましたが、それはどうやらぼく自身の勝手な想像だったの——」


「誰が証拠はないといいました?」

 下総がいった。

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