2
勢いよくドアを開ける。事務員の報告通り、例の男がソファに腰かけて、俊樹のことを待っていた。「お邪魔しております」
「またいらしてたんですか。もうお話しすることはなにもありません。ぼくはこの後も大事な仕事がたくさんあるんです。お引き取り願えませんか」
俊樹は不快感を全部さらけ出した。それとは反対に、ヤクザのような見た目をした壮年の男は、穏やかな表情をしている。「申し訳ない。しかし、どうしてもお聞きしたいことができたのです」
嘆息が口からこぼれた。男の前で何度吐いてきたことか。いつもそうだ。こいつは、同じような文句をいっては、事務所にやってくる。
「事務員から聞きました。勝手にこの部屋にあがり込んだそうで。あなたのことを建造物侵入で訴えたいですよ」
「しかし、事務員の方からは、お茶を出してもらえましたよ」
男は、机の上にあるコップを指さした。季節に合わせた冷たい緑茶が入っていた。どこまでもイライラさせてくれるものだ。俊樹は男を睨みながら、仕事机にカバンを置き、向かいのソファに座った。
「申し訳ないとは思っています。お忙しいにも関わらず、こうして相手してくださっているのですからね。これはほんの気持ちです。よろしければお受け取りください」
側に置いていた紙袋を男は渡してきた。『名古屋百貨店』と書かれた袋だった。「用事があって、名古屋まで行ってきたんです。名古屋名物のひと口ういろです。皆さんで召し上がってください」
和菓子の入った袋を呼び寄せた事務員に預ける。事務員が退室すると、ヤクザ似の顔の男は再度口を開いた。「こちらを訪れるのは、今日で最後にしますので」
「本当ですか?」
「ええ」
「どうも信じられませんね。どうせまた、今日や以前のように『気になることができた』、だのいって、やってこられるんでしょ。
「わたしは嘘はつきませんよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます