第5話 ガニアン
「ガーニアン、ガニアン、ガリエン、ガリアン……うーん……」
「どうしたの?アルベルト」
「流石にそろそろ、あの触手の集合体の名前を決めた方がいいんじゃないかと思ってねぇ。いちいち触手の集合体なんて、長すぎる。ガニメデ・エイリアンを略して、色々考えてるんだ。」
「それなら、最初に見かけたあの虫みたいなやつは、ガンセクトだな。ガニメデ・インセクト、略してガンセクトだ。」
「いいんじゃない?名前っていうのは、基本的に第一発見者に命名権があるからねぇ。ジョージはどれがいいかい?」
「ガーニアンがそれっぽいけど、語感的にはガニアンが呼びやすいな。」
「私はガリアンがいいと思うわ。基地にある2人にも聞いてみた方がいいんじゃない?」
「そうだねぇ。通信を入れようか。」
『私はどれでも構いません。皆さんで決めてください。』
『僕は……ガーニアンもいいけど、ガニアンって、ちょっと可愛い感じがしていいかも。アイツはあんまり可愛いって感じじゃなかったけど。』
「……ということだ。多数決でガニアンに決まりだね。この星の生命体、触手の集合体の名前はガニアンだ。」
「いいと思うぞ。呼びやすいし。名前ってのは、結局呼びやすいのが1番だ。」
「確かにそうだねぇ。ガニアン、いい名前じゃないか。」
アルベルトは笑いながらそう言った。この星の知的生命体の名前が決まった瞬間である。
『では地球に、この星の生命体の名前がガニアンに決まったと、通信しておきます。向こうでも、少々混乱が起こっていたようですので。』
「あ〜、やっぱりか。名前っていうのは、早めに決めておいたほうがいいねぇ。ちなみに、初邂逅時の通信の解析は、どんな調子なんだい?」
『難航しているようです。わかっているのは、最初の部分は「あれは……」という意味ではないかという点だけですね。』
「やっぱりそうだよねぇ。どれぐらいでわかるだろう。」
『未知の言語ですし、電波ですので、人間には想像もつかない法則性を持つ可能性もあります。私にはどれぐらいで判別できるかは、わかりませんね。』
「まあそうだろうとは思っていたよ。次に会う時までに、ある程度解析が済むといいけれど。難航している理由などはわかるかい?」
『……途中から、何かが被せてきたかのように、電波の波が乱れているようです。それで、より難航しているようですね。』
「ガニアンがもう一体近くにいたのかな?」
『そうかもしれませんね。私達が立っていた真下にあるのも、もちろん海なので、そこにもう一体ガニアンがいたのかもしれません。』
デヴィッドの顔は通信ではわからないが、眉間に皺を寄せているであろうことは、探査員全員に伝わった。それほどまでに、どこか嫌そうな雰囲気があったのだ。
『では、また何か新たな発見があることを願っています。願うなど、私の柄ではないと思われるかもしれませんが。』
「そんなことはないよ。人間っていうのは、何かあれば神か何かに願うものだからねぇ。」
アルベルトは、そう言って通信を切った。
「デヴィッドの奴、悩みでもあるのか?」
「生きている限り、悩みなんてつきないものさ。みんなにも、何かしら悩んでいることはあるだろう?」
「そうね。私もずっと悩んでいることがあるわ。ちょっとこの場では言いたくないけれど……」
「ほらね。サンプルが1人だと信憑性ないかもしれないけど、人間そんなもんさ。悩みがなくなるのは死んだ後だけだよ。」
「そうだな。俺も悩みがないわけじゃないような気もしてきた。」
「ジョージは結構気楽に生きてそうだよねぇ。何か秘訣でもあるのかい?」
「目の前の出来事に集中することだな。過去を振り返って反省することも、未来の為に努力することも重要だが、結局目の前の問題を解決しないと、前には進めねぇ。」
「名言みたいね。」
「当たり前のことだけど、間違いなく名言だねぇ。」
そんな雑談をしながら、山のようになっている方角に、ローバーは進んでいった。
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