第8話
「ここの屋敷はずいぶんと暖かいね」
「本当だねぇこんな所が近くにあって助かったねぇ」
ぼんやりとした感覚で目が覚めると、小さな話声が聞こえる。
様子を窺っていると、小さな声は一人や二人じゃなくて、10人とか20人の規模でガヤガヤと騒いでる事に気付く。
目を覚まして話し声がする方を見ると、空調の魔道具にあると吹出し口で温風にあたって気持ち良さそうにしている、空飛ぶ小人みたいなのがわらわらと集まっていた。
何人かとは視線が合うが、我関せずという雰囲気でこちらの視線はガン無視だ。
「なんだかあの子がすごい見てくるね?」
「獣人や森人でもなければ見られる事なんて稀だもの、暖かいからボーっとしてるだけでしょ」
「少し暖を取ったら東の方に逃げなくちゃいけないからね」
「これ、暖かいのに火が出ないなんて便利ねー」
何かがあって避難したみたいな、それで寒くて暖を取ってるみたいな?
小人たちはあっちこっちで話しているので全部は聞き取れないけど、面白そうのでしばらく聞いている。
「これの中に入っていじったら、もっと暖かいかしら?」
「やめなよー、また物を壊すと払いのお札を張られて家には入れなくなるじゃない」
「すぐにそうやって、珍しい物にちょっかいかけるのを、やめなさいって長からも叱られてるのに」
「大丈夫よ、人になんてどうせ姿なんて見えないんだし、壊れたら似たような物が他の部屋にもあるから平気よ!」
なんだか、一部の小人がしている会話がちょっと不穏だな。
空調の魔道具はすごく高価と聞かされているから、壊されても困る。
せっかくだから、ベットの枕元に立て掛けてある雷の杖でピリッとさせてお仕置きしよう。
レイルトンから教わった加減の仕方を思い出しながら、ベットから起きて杖を手に取り、ふんぬと込める魔力をかなり加減してみる。
加減とは言っても溜める時間短くするだけなんだけどね。
そして、魔力が入らなくなる前に動作スイッチを押して杖から魔力を出すと、悪戯しようとしている小人に目がけて放つ。
バチン
「あー」「あー」
小人たちは驚きの声を一様に上げて、空調の魔道具からサッと離れて部屋の物陰に隠れる。
雷が当たった小人は、ショックで気絶して床に墜落する。
「あの子、やっぱり見えてるわね?」
「あの子、話し声も理解してるんじゃない?」
カーテンや家具の陰から様子を窺ったような声がする。
気絶した小人をちょんちょんとつついても反応が無かったので、サイドテーブルにある凧糸みたいな細い紐で「お縄につけー」と言った感じで縛っておく。
そして、会話が成り立つとは思えなかったけど、話しかけてみる事にした。
「私の家の高価な魔道具を壊そうなんて、君らはなにか悪いモノなのかな?」
話が通じたのか、一瞬バタバタっと音がして静かになったが、しばらくすると一人の小人が私の元にやってきた。
「術師の館とは知らずに無断で踏み荒らして、ごめんなさい」
土下座ではなかったけど、深々と頭を下げてきたので、反省してるよって事なのかな?
「ここは私の両親の館だから、私の物ではないんだけど。壊されて困るのは両親だからね、変わりはないよね?」
「はい、今、縛られている者も悪戯が過ぎると長によく罰を受けておりましたから、仕方ない事かと思います」
「だいぶ加減したはずなんだけど、気絶するとは思ってなかったから、それについては謝るけどね」
結構時間は経ったと思うけど、全く意識を取り戻さない気絶した小人をちょんちょんとつつきながら苦笑いした。
外は明るいので朝だとは思うけど、起きてもメイドさんからの反応が無いと言う事は、まだ起きるには早い時間なんだろうと思ってテラスの外を見る。
テラスのカーテンを開けると、そこから見える景色は一面の銀世界になっていた。
うわー、この世界って真夏の時期に子供の腰丈ぐらいの雪が降るんだなぁ。
庭先を見ると、使用人達が総出で雪かきしている姿が見える。
「夏に雪って降るもんなんだねぇ」
「・・・?この雪は《ghlano》《kolmyth》【紺碧 泳ぐ者】の仕業ですよ」
「え?誰それ?」
「ここから遥か西の海で無数に浮かんでいる《plotnis》【浮島】の主である龍の名です」
「なんかまた大物出てきた!」
事件の裏に大物の影アリってか?
事情を知っていそうだったので、会話をして館に逃げてきた事情を聞いたみた。
彼ら精霊と言われる存在で、大体そこらへんに沢山いるみたい。
今は北西の方で起こった魔力の氾濫から避難するために、悪い気のしない東の方へ避難している最中だったらしい。
精霊たちは普段はこんな気候ぐらいで不調になる事は無いみたいだけど、北西の方で荒れ狂っている氷の魔力の悪影響がとんでもなく強いらしく、避難中に集まった精霊の中でも、樹や花草の魔力を依り代にしている精霊たちが具合が悪くなって、休めそうな館に逃げ込んだという話だ。
「暖が取れればよくなるって事?」
「確かに暖かいと言う事は快適ですけど、不調は魔力が原因ですから。跳ね除けていそうな強い存在の近くに集まったのです」
「もしかして、それは私って事かな?」
「ちょっと違いますね、お隣の部屋で寝ている小さな女の子です」
「えぇ!隣の部屋ってルールーの部屋じゃん」
不調になった精霊たちはルールーの部屋で休んでいるらしい。
なんだか、ルールーの持つ魔力の流れが精霊たちに良い流れらしい。
寝て起きたら、見慣れない小人たちが部屋に居るのは騒ぎになるかもしれないと思ったけど、精霊たちの姿は魔力と一緒で、よほど適性が無い者には感じても姿が見える事はないと言う。
私は見えるんですけど、どうしたら良いんですかね?
精霊たちの声も、他の人たちには聞こえて無さそうですね?
それに、妙ないたずらされてルールーが怖がるといけないので、部屋の様子を見に行こうと思う。
部屋でだいぶ騒いでは居たけれど、朝の支度にメイド達がやって来なかったので、自分でクローゼットにしまってある普段着に着替える。
いつもは首飾りにネクタイとかされるけど、外が雪だから重ね着して寒くない格好かな?
上着を選んでいると、リンリンリンリンリンリンリンリンッとけたたましい呼び鈴が、隣の部屋から鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます