第7話



「そう言えば、この黒い霧ってなにか意味があるんですか?」


「魔道具でも見える黒い霧は魔力です。これは魔領とも深い関わりがありますが、主な効果としては動植物の育ちが良くなります」


「へぇ、魔力で生き物って成長促進するんですね?」


「良い面で見るとそうですね、ですが、長期間にわたって魔力を供給され続けると、動植物の体内に魔石が生じて魔物化します」



マジか!魔力補給型成長育成剤とかで農業ウハウハじゃん?とか思ってたらいつか魔物化するのか。



「獣や人は魔石化に対する耐性があるので、滅多な事では起こりませんが、魔石化に耐性の無い植物は容易に魔物化します」


「魔領の基礎講座で習ったことがあるなぁ、魔力が強く澱んでる所の木々や花草などは魔物化してるから気をつけろって」



ランペルト兄さんは魔力を可視化するメガネ型の魔道具で庭先を眺めながら、こんなに広範囲に魔力があるの初めて見たという感じだ。


もうひとつあったメガネの魔道具をルールーに貸してあげると「にいさま、ありがとうごじゃーます」と可愛い。


レイルトンが言うには、その対応に追われて領内の警備も忙しく、魔領の動向も予断を許さない状況は変わらないとの事だ。



「ファリオン様が魔力視出来るとは、いよいよ虹彩魔力の持ち主であることが間違いないですね」


「虹彩魔力があると魔力が見えると言う事ですか?」



「そうですよー!」とレイルトンが早口で虹彩魔力についていろいろと説明するが、早口だし難解だしでぜんぜん解らない。


よくわかんないから掻い摘んで出来る事を説明させると、裸眼で魔力視があり、魔石を使う魔道具はどの属性も使いこなせる。


さらに出来ないことを聞くと、神聖魔法や精霊魔法と言った呪文を使う魔術は使えないと言う感じの話。


ナンデ?一番魔法っぽいのに使えないの?



「教会の癒し手や東方の獣人に多い精霊使いは、魔導を使えない者が多いと聞きますが、王国にはあまり居りませんから」



レイルトンに呪文が使えないと言われて露骨にガッカリしてたら、使い手が少なくて余ってる魔道具の兵装を持ってきてくれる。


面談の時に使った雷属性の杖と土属性の防御結界を作れるタリスマンだ。



「土の結界は魔力の遮断効果だけでなく、物理的な遮断効果もあって優秀なんですが、使い手が少ないんですよね」



2色の魔力を使う者は少ないみたいだけど、さらに土の属性である紫色、赤と青を両方使える魔導士は少ないらしい。


でも、ちょっとレアだからって呪文が使えないのは悲しいよね。



「ファリオンおにーさま。そんな時にはラルアアラルア・ホロスアホロスのおまじないですよ」


「ルールー、なんだいそれは」


「リリアン・ハートウッドせんせーの笛吹きのおはなしにある、元気になるおまじないなのです!」


「そうなんだ、童話で呪文も教えてくれるんだ?」


「おにーさま、じゅもーんではありません、おまじないです!」


「そうなの?おまじないなんだね」


「そうです!おててもじゅーようなのですよ、ゆびさきをピンとしてくるくるしながら、げんきになってほしいお方にめがけてゆびさすのです」


「わかったよ《laula》《le》《laula》《choros》《le》《choros》【笑え や 笑え 踊れ や 踊れ】くるくるー、はいルールー」



おまじないっていうぐらいだし、なんか謎の自動翻訳が効いたから、意味があるんだろうとは思ったけど。


おまじないを唱えながら指のしぐさをまねした辺りで、指先は白い淡い光を纏い始める。


最後にルールーを指さすと、白い淡い光はルールーを包んで花火がはじける様にして消えた。



「おにーさま、なんだか楽しくなってきました!」


「えっ?そうなの?よかったね」



向精神効果のあるおまじないってヤバい気がする・・・


童話に書いてあるぐらいだから、そんなにヤバイのじゃなきゃいいけど。


そのまま、ルンルン気分なルールーのお相手をしていると、5分もしないうちにおまじない効果は薄れたようだった。


暗い雰囲気だった居間の様子も、少しは晴れたかなと言ったあたりで夕食の時間になる。


残念ながら、父さんは戻ってこれないらしい。



「父さんはご不在ですか」


「お仕事ですから、仕方ない事です。さぁ、みんなでいただきましょう」



ルールーはいつにも増して母さんにベッタリだ、私はランペルト兄さんと母さんの対面に座って、いつもよりは厳かに食事を頂く。


私の誕生日の前日だったので、内容はちょっと豪華な感じがするけど、お祝いムードはちょっとおあずけかな。



食事を頂いた後で、すこしみんなと団欒し、寝る前のお風呂に入った後だった。


今は暦で7月、夜は少し肌寒い日もあったりはするけど、真夏の夜だから寒いなんて言う事はまずは無い季節だ。


でも、お風呂場で寝間着の着付けをされてから、廊下に出ると随分と寒い事に気付く。



「アリスいる?」


「はい、ファリオン様。如何為さいましたか?」


「ちょっと屋敷が寒いみたいだけど、空調の魔道具は大丈夫なのかい?」


「大変に申し訳ございません、確認を致して参ります」



お風呂の後だったので、濡れた体に冷房効きすぎて寒いのかな。


それにしてはちょっと寒いけど。


自室に戻ってガラス越しにテラスから景色を眺めると、領都の防壁辺りで篝火がたくさん灯されていた。


ベットに入ると布団はすっかり冷えていて、夏とは思えない雰囲気だったけど、しばらくして空調の魔道具から暖かい風が出たらすこし寒さが和らいだ。


何事もなきゃいいんだけど。


ソルフィラディクスかぁ。


どんな姿かはわからないけど、大型の龍種は移動するだけで大災害なんだなと思いながら、すやすやと眠りについた。



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