第6話



両親と2人の先生方がとても難しい表情で話し合っていた。


要約すると、先生方は学力も素質も問題ないから「今すぐに」でも王立学園に進学すべし。


両親は私がまだ5歳と幼いし、百歩譲って学園に行くとしても、身体的にもう少し成長するまでは自宅学習で良い。


そんな会話がとりとめなく繰り返されている。


うん、いきなり王都で独り暮らししてね!とか言われても、さすがに無理やん。



「私の力や個人で用意できる教材だけは、知識不足や誤りを多く教える事になりかねません」


「全てが正しい学問などはない、それに誤りも新たな知識も後に学園で上塗りすれば良い事だ」


「300万とも400万とも言われる全王国民の中でも【3つの属性】【3つの複合属性】を使える【虹彩魔力】の持ち主は10人もおらんのじゃよ」


「新たな研究を行うにもしても、魔導士として兵役に加わるにしても、ファリオンはまだ幼すぎる」



たまーに聞こえる先生方の進学アピールがめっちゃ強い。


「いつやるの」「まだ早い」と話が白熱する中、庭の的の破片や魔道具は騎士の方とレイルトンが片付けてくれてた。


お礼をするとにこにこしながら、二人は居なくなった。


やることも無くて困っていると、アリスが近くに別のテーブルを用意してくれて、そこでお茶を飲みながらゆっくり待っている。



と、進学話は急な展開で中止になった。


急いでやってきた騎士からの伝令を聞くと、父さんとバージル先生が血相を変えて飛び出していった。


理由はよくわからないが、急いで飛び出して行くような光景を初めて見たし、残された大人達もひどく動揺していた。


何はともあれ一旦避難と言う事で、ランペルト兄さんとルールーも集められて、居間に集合となった。



「母さん、ひどく家中が騒がしいけど、何があったんだ?」


「何があったのかはわかりませんが、辺境伯様の緊急郵便で知らせがありました」



ランペルト兄さんが沈黙を破ると、母さんはルールーを胸に抱いて宥めながら、静かに話し出す。



「ここより遥かに北の魔領の奥地で人の営みよりも古きから棲んでいると言われる【古き紅蓮竜 ソルフィラディクス】が南へ向かって飛んで行くのが目撃されたそうです」



んー、ダルベス男爵領は北西側が魔領の山脈地帯で北東側がリトリア子爵領がある、リトリア領も相当に広いけど、その西側は山脈地帯が続いて、さらに北側はヒマラヤ山脈ぐらいの山岳地帯がずっと連なっている。


その山岳地帯の東側にあるのがセルドシア辺境伯領だ、辺境伯領の東側に位置する帝国領を睨む役割が主だが、その西側にある人類到達困難地域の魔領に住む、一体のエンシェントドラゴンの動向監視をしているって、王国貴族録に書いてあった。



「南ってまさか、リトリア領が襲われているのか?」


「まさか!そんな事があれば王国の終焉ですよ!」


「では、リトリアでは目撃されていないのですか?」


「少なくてもリトリア領の人里にはソルフィラディクスはやって来ていないそうですよ」



それを聞いたランペルト兄さんがぞっとした顔になったが、私は違う意味で困惑していた。


古代龍の名を聞いた時から《thlfira》《dixuos》【紅蓮 力ある翼】ってキーワードでその名が聞こえる。


「スルフィラ ディクァス~」の方が発音が近いんだ、へぇ~、って何語ヨ!



「リトリア領を超えて、我が家のダルベス領まで来るとでも?」


「ランペルト、それは解りませんわよ。今は父の帰りを待ちましょう」



そわそわと落ち着かないランペルト兄さんと怖いのか全く喋らないルールーを宥めるように、母さんが二人の相手をしている。


そんな様子を眺めながらふと外に視線を配ると、ここの所よく見かける黒い霧が、居間から見える外の庭にふわふわと降り積もっている事に気付く。


今までにあんなものが降ってるとこは見た事が無い。



「母さん、ちょっと外に出て、天気の様子を見てもいいですか?」


「ファリオン?今は外が危ないと話をしていたと思いますが?」


「どうしたんだ?外の天気なんかを気にして、いつもと変わりないじゃないか」



居間から出られるテラスの戸の前でランペルト兄さんは不思議そうにする。


あー、黒い霧は誰でも見えるわけじゃない事案か?これはちゃんと聞いた方が良いか。



「昼にあった魔力計測で使った魔道具から出ていた、黒い霧のようなモノが庭に降り積もっているのでどうしたのかなと」


「黒い霧?良くはわかりませんが・・・バージル卿は不在ですから、魔導士文官の者を呼びましょう」


「ファリオン・・・まさか魔力が見えるのか?」


「兄さん、それは解らないけど。でも、状況から言うとそうなんだと思うよ」


「魔道具によらない魔力視は、鍛錬とかでは目覚めぬ天賦の才能だと武術鍛錬で教わったけど、スゴイな!」


「へぇ魔力視かー、兄さんなんかカッコイイね?」



ランペルト兄さんとテラスの前で遊んでいると、ルールーもそれを見て近くに寄ってくる。


すると、ドタバタと足音をたてながらレイルトンがやってきた。


居間の入り口で使用人に咎められてるのが若干笑える。



「レイルトン、ファリオンが言うには庭先に黒い霧が降っているとの事ですが、どうなんですか?」


「はい、フィオナ様、先ほど私共も確認しましたが、北西の空から流れている魔力がこのあたりに降り積もっている様です」


「北西の空から流れて降っているんですか?」


「ええ、ファリオン様。南東の火山島群では多いと言われる、噴火の噴煙による灰が降る現象とよく似ているとバージル様も仰っておりました」


「魔力が噴火している?」


「正確には違いますが、それに魔力は風の影響を受けませんので、飛んできた方角はほぼ間違いないかと」


「その先で何かがあったのは想像したくないですね」


「少なくてもソルフィラディクスの向かった先が、王国内ではなさそうと言うのが不幸中の幸いです」



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