第5話



「それでは実際にお見せいたしますのじゃ」



バージル先生がそう言って文官に合図を送ると、先ずは屋敷でもよく見る【水を出す瓶】の魔道具を渡される。



「バージル先生?私は魔道具の使い方は教わっておりませんが?」


「使い方は至極簡単じゃ!瓶に用意された安全装置を切って、取っ手を握って持ち、魔力測定器で行なったように魔力を流すだけじゃ」



バージル先生はそう言うけど、瓶の安全装置ってどれだよ?


と思っていると、文官が「瓶の取っ手が付いている所の内側にあるスイッチですよ」と教えてくれながら、瓶を手渡してきた。


近くに魔石を取り付ける所が付いているので、瓶の中の装置と魔石をスイッチで切り離してるのね。



「それではやってみますね」



魔力を流すなんて感覚は習った記憶も無いんだけど、スイッチを入れて取っ手を握ると、手先から何かが抜けていく感覚がある。


しばらくすると瓶が重くなってきて持てなくなったので、両親が座ってるテーブルに瓶を置かせてもらって続ける。


20秒もしないうちに瓶は満タンになって零れてきたので、そこで止める事にした。



「水の魔道具は完璧に動作いたしましたな、レイルトン次じゃ」



レイルトンと呼ばれた文官は、銀色で深く丸い窪みが付いた金属板と、金属板に配線でつながった箱を用意する。



「ファリオン様、箱は安全装置がありませんので、そのまま魔力を流してください」



レイルトンは、金属板の窪みになみなみと先ほど出した水を灌ぐ。


言われるがままに箱に手をかざすと、瓶の時よりも勢いよく手先から何かが抜けていく。


すると、直ぐに金属板に注がれた水は白くなって、凍り始める。


30秒もすると、金属板全体に白くなった霜が付いた。



「氷の魔道具も完璧な動作ですな!旦那様、奥方様。氷の魔力は風と水の魔力の複合なのは御存じじゃな?」


「そうだな。レイルトンのおかげで冷温貯蔵や空調の設置が充実したと聞いている」


「レイルトン、いつもありがとうね」


「私などにお礼など、滅相もないことです」



急な話の流れにレイルトンがちょっと照れている。


すると、バージル先生は騎士に合図すると、庭の遠いところに的の様な物が用意される。



「最後に、雷の魔道具の動作じゃ」



バージル先生がそう言うと、レイルトンが身長と同じぐらいの長さがある片手の杖を持ってくる。



「持ち手が安全装置になっておりますので、金属の所を握ってくださいね」


「これは魔力を込めるだけでいいのかな?」


「そうですね、発動前に庭の的の方へ飛んで行くよう意識してみてください」



んー、魔力の感覚もよく分からないで使えてるから、言われた通りにすれば何とかなるのかな?



「バージル殿、私の記憶が確かであれば、複合の魔力は多くて一つと記憶しているが?」


「それは一般論じゃ」



後ろのテーブルで父さんの話声がする。


なんか、話の流れでイヤな予感がしてきた。


まぁ、やれと言われたので杖を持って手の感覚に集中すると、ふわっと抜けていく感覚が途中で止まった気がする。


すると、その魔力が飛んで行きそうな方向がなんとなく分かる。


特に意識しないと、杖の持ち手の頭の所から、魔力がバラバラに飛んで霧散しそうな感じだった。


なので、庭の遠くにある的を見て、そこへ飛んで行くように意識してみる。


すると、杖の頭から的に向かって一直線に飛んで行く感覚が出来たので、じゃぁ飛んでけと意識する。


杖から黒い靄みたいなのが的に向かって飛んで行く。


スパーン!


うぉ!


的に黒い靄が到着すると、雷が落ちたみたいな派手な破裂音と共に、的が木っ端微塵になって盛大に吹き飛ぶ。


杖から黒い靄は飛んで行ったけど、杖が雷を放った感じは無かったから、的に魔力がぶつかった時に雷が発生したんだな。



「おお、やはり雷の魔道具の動作も問題無いようじゃな!」



バージル先生が喜ぶ。


だが、両親は少し驚きと戸惑いの色を見せる。



「あなた。ファリオンは、まさか本当に【虹彩魔力】を持っているのですか?」


「うむ。複合魔力の魔道具は、並程度の魔力の組み合わせでは発動しない、それにあの杖は王国軍用の兵装だ」


「仰る通りじゃ、色判定で各色6程度、魔力判定でも140程度は無いと実用には耐えんからの」


「雷の魔道具の魔道具は、風と火の魔力が水準以上にある証拠だ。氷の魔導と組み合わせて考えれば、土の複合も使えると言う事だな?」



父さんがフウッとため息を吐く。


んー、反応からするに割と珍しい感じだ。


レスティトーラーが言っていた「お膳立て」とは魔力持ちの体質なのかな?


でも、なんか魔力なんて使った事はなかったから、魔力が使えるなんてすごいね!



「レイルトンさん。魔道具が使えるって事は呪文とかも使えるんですか?」


「ファリオン様、呪文なんてよく存じですね。ですが、呪文は【神聖魔法】や【精霊魔法】の分野ですので、王国では使い手があまり居ませんね」


「へぇ、なんだか難しいんですね」


「魔導と言うぐらいで、魔道具の魔力供給元は魔石です」


「なるほど、と言う事は神聖魔法や精霊魔法は魔力供給元が違うんですか?」


「仰る通りです、神様や精霊のと言った、上位の存在に魔力を借りるのです」


「神様や精霊ですか」


「表立って公開してませんけどね、なんだったっけなぁせーせーぴあー《se》せー?《se》《the》《peia》だっけ?」


「《se》《the》《peia》ですか?」


「なんか発音お上手ですね・・・癒し手の方が使う回復呪文ですね」



うん、脳みそバグりそうなんだけど《se》《the》《peia》って【作れ いくつか 生命】って聞こえるんだよな。


一言に意味があるのかな?つーか、何語なのかもわからないのに理解できるの怖い。


魔力を意識して発音したら、呪文が発動しそうなのでやめといた。



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