第4話



「ファリオン様、アリソン殿が答案の採点をしている間に、こちらの要件も済ますかの?」



そう言ってバージル先生は部屋の真ん中に置かれた魔道具を指さす。


太い配線に繋がれた丸い円盤が床に置かれて、配線の先には持ち手の着いた箱がある。


それとは別に台座に置かれた水晶球が置いてあった。



「僭越ですが動作テストを兼ねまして、私が実際に魔力測定をします」



文官の一人がそう言うと、丸い台座に立って持ち手の着いた箱を持つと、肩の位置辺りで腕を前に伸ばす。



「箱は大人を想定した重さなので重いですが、ちょうどいい位置に土台を入れて支えますので、動作姿勢だけ覚えてください」



んーまさに全身体組成計の基本ポーズだな、これは「体脂肪率30%超」とか結果出たら泣くわ~。


とか思っていると無色の水晶球が光出して、緑と青が強く稀に赤が混じった模様になり、中心は少し暗いくすんだ水色の光を放つ。


待機していた他の文官は、水晶球にたくさんの色見本をあてがって色を確認する。


それを何人かで見比べて、一色の見本を手に持って「緑6、青7、赤2」と読み上げる。



「このように最初の判定は得意属性の判定となります」



説明によると、赤緑青色はそれぞれ火風水に相当して、交じり合う水紫黄色は氷土雷と対応する。


この文官は水と風と氷が得意で火と土と雷が苦手って事だな。



「続きましては、箱を置いて水晶球に直接触れてください」



動作テストをしている文官がそう言うと、光がおさまった水晶球に触れた。


しばらくすると水晶球は中心はくすんだ水色に、全体は少し暗いグレー色に光る。


また待機していた文官は、グレイスケールの色見本と水晶球を見比べながら、何人かで確認して色に決めると「力106」と読み上げる。



「動作は問題無いようじゃな!ささ、ファリオン様」


「はい、わかりました」



さてはバージル先生は、私の魔力測定に興味津々だな。


丸い円盤に立ち、腕を持ち上げてみたけど、この箱めっちゃ重い!


仕方ないので持てないアピールをすると、持たずに腕を伸ばした手先がちょうどの位置に来るように、箱を置いた土台で固定してもらう。


じゃぁ早速握ってみますか。


すると身体に何かがふわふわと入ってくるような感覚になって、少し気持ちいい。


水晶球が文官さんの時より勢いよく光ると色が見え始める。


水晶球の中心は漆黒になり、そこから虹色のグラデーションのように色が付いて、水晶球の縁は真っ白に強く光った。



「わぁ、なんかすごいキレイな色ですね」


「そうですねー、キレイですねー」



と私が言うと、色見本を持っていた文官は呆然としてた。


【日本】で写真とかを色補正する時に使ってた、色相環の見本みたいな光り方するんやな。


そう思っていると「次は水晶玉触ってください」と文官に言われたので、箱を手放して水晶球に手を伸ばす。


しばらくすると手から何かが出ていく感覚になって、水晶球は中心は鮮やかな真っ黒になり、全体は真っ白な色に光る。



「へぇ、なんだか明かりの魔道具に使えそうですね」


「そうですねー明るいなぁー」



使い方を教えてくれた文官は水晶球を食い入るように見つめていた。



「この色の数値ってどれくらいなんですか?」


「用意してある色見本ですと、複数の単色や水晶球の外側で発光した時の色見本が無いので解りかねます」


「ファリオン様、測定はもう良いのじゃ」


「それでは、水晶球から手を離して頂いて、これで測定は終わります」



と色見本を当てることも無く、測定終了を告げられた。


水晶球から手を離すと、光は消える。


円形の台座から降りると、待機していた文官達は装置を片付け始め、それが終わると一礼して退室していった。


少し離れた場所で、バージル先生とアリー先生が何かを話し合っている。


手持無沙汰になっちゃって、勉強机でお茶を飲みながらゆっくりする。


しばらくすると、話し合いが済んだみたいで、アリー先生は退室していった。


バージル先生が厳かな雰囲気で言う。



「家庭教師については領主様と奥方様と相談したいので、アリーに準備をさせておるのじゃ」


「わかりました。結果は良さそうですか?」


「結果か・・・優秀じゃな。その事については領主様からお聞きになられると良いのじゃ」



後のお楽しみって事かな。


しばらくすると、アリスがバージル先生を呼びに来た。


面談には時間もかかったので、そのまま昼食になった。


このあたりの名産品であるハムとチーズを挟んだハムチーズサンドだ。


今日はラム肉かな?ちょっとクセがあるので大人の味だけど、ハーブが効いてとっても美味しいね。


魔領と海に挟まれた立地で農地が大きくないので、耕作よりも畜産が盛んだが、輸出向けの生産が多いので燻製や加工肉も種類が多い。


陸路の開発があまり進んでなくて、大公国国境付近は昔から大型盗賊団も居て治安は最悪らしいし。


食肉の加工品は単価もあまり良くなくて、伯爵領行きの宿場街も維持が大変らしいけど。


たまに魔領で狩ったクマやシカやイノシシも食卓に出るけど、ジビエは子供でも食べるのかぁと思いながら、おいしかった記憶しかない。



午後になると、両親に呼ばれてお庭に行くことになった。


なんだろうなぁ。


普段はあまり見ない騎士と先ほど計測のデモンストレーションしてくれた文官の方が、1mぐらいの片手で持てそうな杖を準備して待っていた。


テラスのテーブルセットには両親とバージル先生とアリー先生が待っていた。



「面談の結果は上々で、教師からも絶賛された」


「ファリオンが本を好きなのは知っていましたけど、影響が勉学までに及んでいるとは思いませんでしたね」



両親からは早速褒められた。


まぁ、言語は事前知識が無くて苦しかったけど、それ以外は【日本】で受けた教育の賜物だ。


「1+5=イチゴ」とかの世界観でなくてよかった。



「アリソン殿からは、勉学レベルは基礎レベルに到達しているので、学園への入学を勧められた」


「学園に入学ですか?」


「今日、ファリオン様に受けて頂いた小テストは、王立学園の入試テストと同じ内容の抜粋となります」



両親の後ろに控えていたアリー先生は「評価A+」と書かれたテストの答案用紙を持ってくる。


紋章学のわからなかった旗は、王都の王立学園の紋章だったらしい。


流石に知らないわー。



「学園は教会や領地などで行なっている基礎学習を経た物が、高等教育を受けるための学校ですので、入試があるのです」


「ランペルトは少し苦手にしておるが、来年入学するヴェルマーレにある寄宿学校は、学問の学校ではないのだよ」


「そうすると、学生の年齢はレオハルト兄さんぐらい高そうですけど?」



今年で14歳のレオハルト兄さんは、来年でヴァルマーレの寄宿学校を卒業だったはず。


すると、王都の学園って高校生ぐらいの年齢で行くんじゃないの?



「年齢で通う制限はありません。あくまで入試で合格する事で学園は門戸を開くのです」



アリー先生は力強く言葉を放つ。


アリー先生って王都の学園の卒業生っぽいな。



「ファリオン様には王都の魔導研究所で、魔導を極める道もございますのじゃ」


「バージル殿。そうだったな、門戸こそ違えど、王都の魔導研究所は王立学園の研究機関であったな」


「左様でございますのじゃ。学問を究める事も良い事ですが、類稀なる魔力の才を極める道もありますのじゃ」


「しかし、ファリオンにその様な稀有な魔力の才能はあるのか?」


「そうですわ、計測器の故障ではないのですか?」



そう言うと、バージル先生の瞳がキラリと光る。


なんか悪い事考えてそう。



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