第3話



居間に入ると父さんと母さんが既に食卓で待っていた。



「おはようございます」


「うむ、おはようファリオン」


「おはようございます、ファリオン」



父さんは42歳、母さんは34歳。


父さんはブロンドの短髪に青い瞳で、身長はすごい高くて体格もかなりガッチリしているイケ渋な感じ。


母さんは薄い緑色のロングヘアーにエメラルドグリーンの鮮やかな瞳で、背も高くてメリハリボディな感じ。


なのに、私は黒髪に黒い瞳・・・本当にこの人たちの子なんだろうか・・・心配になる。



食卓の席順は決まっていて、父さんの隣がランペルト兄さんで、母さんの隣が私とルールーだ。


食卓に座ると今のソファーの後ろに置いてある、大きな飾り付きの振り子時計がポーンと7回の鐘を突いた。


居間で待機してたメイドさん達がいそいそと準備を始めると、ランペルト兄さんとルールーもやってきて朝食になった。


今日のメニューはそら豆の冷製スープとカルパッチョ風の味付けされた白身魚が乗ったサラダ。


家の中は空調の魔道具で快適に過ごせるけど、夏はやっぱり暑いので冷たい食事はちょっとうれしい。


食卓には次の皿がやってきた、朝食のメインは蒸した鶏肉を旨味ダレと夏野菜で和えた皿とやわらかいホテルブレッド。


これなら鶏肉をパンにはさんでよし、そのままでもよし、今日も朝から御馳走で余は満足じゃ。



お昼の食事は自室で軽くと言うことが多いので、家族で一緒に食べる朝食と夕食は多めに出る。


家族で団欒しながら食事を済ませて一息つくと、ランペルト兄さんは武術の稽古があるみたいで準備の為に居なくなった。


ユィルールは読みかけの本があるらしく、しばらく母さんに読書をせがんで居たけど、母さんが折れて二人でテラスに行った。



そろそろ部屋に戻るかなと思うと、ソファーでくつろいでいた父さんに手招きで呼ばれた。



「ファリオン、明日は誕生日だな」


「はい、父さん。5歳になります」


「早いものだな・・・それでだな、次期は来年からでも良いのだが、ファリオンに家庭教師を付けようと思ってる」



おふ、いつかは来るとは思っていたが、マンツーカテキョでおべんきょうかぁ。


10歳ぐらいには義務教育的な学校もあるみたいだから、まぁ退屈な時間から逃れるのは無理だろうなぁ。


ソファーに座って話をする。



「ランペルトは武術の稽古が捗るようだから、それは来年以降として、先ずは勉学と魔導の講師達と話してみなさい」


「勉学と魔導ですか?」


「そうだ、勉学の講師は主に言語と算術を教える、捗るようであれば貴族学の王国史と紋章学や経営学も学ぶと良い。魔導の講師は主に基礎魔導学だな、それに魔力の才能は十人十色と言われる事だから、才に合わせて講師と相談すると良い」


「わかりました」


「10時に間に合うようにそれぞれの講師を呼んでいる。面談はファリオンの自室でよいな?」


「はい、お父さん」


「いずれ学ぶ事だ。急いで無理をする必要はない」



父さんは私の頭をくしゃくしゃっと撫でると「仕事に行く」と言って居間から出て行った。


寡黙だけど、とても素敵なお父さんだよな。


一度目の私と比べたら、男として負けてるなとホントに思う。



それから、部屋にある勉強机で、アリスに用意してもらったお茶を飲みながら待っていると、二人の男女が訪ねてくる。


勉学の講師はこっちの世界では珍しいパンツスタイルのお姉さん、魔導の講師は男性でフード付きのローブを羽織ったおじいちゃんだった。



「ファリオン様。ダルベス領魔導顧問と家庭教師を務めておる、バージル・ウェステイムじゃ」


「お初にお目にかかります。家庭教師を務めさせて頂いております、アリソン・ヴェルマーレです。気軽にアリーとお呼びください」


「始めまして、ファリオン・バルフォードです」


「早速じゃが、儂は少々道具の準備があるのじゃがな、荷運びにやった文官の入室をお願いしても良いかの?」


「はい、どうぞ」


「では準備を始めますのじゃ、少し騒がしくしてしまいますがな、問題がなければアリソン殿、先をどうそ」



バージル先生は一礼して出入口に手で合図を送ると、機材を持った3人文官達が入ってきた。


おっきな水晶球やそれを置く台座なんかを、部屋の真ん中辺りに設置して配線したりと組み立てを始める。


アリー先生は「ありがとうございます」と言うと、勉強机に用意されている補助席を出して座って、テーブルに2枚の問題用紙を置いた。



「ファリオン様。私からは学力テストを解いて頂こうと思います」



最初の問題用紙は表は文字の読み書きと文章の読解のテスト、裏には算術の四則計算と製図のテスト。


2枚目の問題用紙は表に地図が書いてあり、地名が書かれている物と、いくつかの紋章がモノクロの線画で書いてある。


何かの印刷を使っているみたいで、文字や図の線が均一に書かれてとてもきれい。


答案は問題の近くに下線が引っ張ってあるので、そこの空白に書けば良さそうだ。



「この砂時計が落ち切る15分間で出来るだけ解いてみてください。もちろん問題はわかる範囲で結構です」



アリー先生はニッコリすると砂時計を机に置いて「いつでも始めてください」と言うと砂時計の頭を押して、砂を落とし始めた。


おっと、いきなり学力テストか。


引き出しから筆箱を出して鉛筆と消しゴムを出すと、言語問題から解く事にした。


むむむ、言語は本を読むから読めるけど、あんまり書かないから文字の書きが苦手だ。


「神聖エルリルア」ってどう書いたっけ・・・間違えて【日本語】で書きそう。


アストーリア語の文字は漢字みたいなのがあるから、たくさんの文字を覚えないといけないなぁ。


「薔薇」なんて文字だったら一生書けないと思うけど、さすがにそんな問題はなくて安心した。


算術は四則計算に四角と三角の図形問題があったが簡単すぎて草生えた。


1枚目は終わったので一息ついて2枚目に取り掛かる。



地図問題は得意だった、王国の首都、お隣さんのヴェルマーレ伯爵領とリトリア子爵領、ダルベスの領都の位置と名前。


地理とか地図とか歴史とか【日本】に居た時から好きなんだよ。


ついでだからダルベス領の簡単な境界線と、隣国ハベルジア大公国の首都と一番近い砦と国境の砦、主要な陸路も書き加えといた。


ダルベス領は海があって沖の波は穏やかなんだけど、海岸線の全域に潟や沼が広がってて、海も浅すぎて小さな漁船しか航行できないんだよなぁ。


ハベルジアの有名な港町ウェスト・チャーチルと、ヴェルマーレの港町ベルリムを結んで、東にずっと続いている【ティリス東西横断海路】と書いておく。


海側の開発の為にも、ヴェニスみたいな干拓事業してみたなぁ。


おっ、ついつい夢中になってテストの出題からかなり逸れた。


そして、最後は紋章問題。


紋章は5つ書いてあり、アストーリア王家、ヴァルマーレ伯爵、リトリア子爵、ダルベス男爵の紋章だったけど、最後の一つは見たことなかった。


「見た事が無いのでわかりません」と書いておく。


久しぶりに解いたテストと言う事もあって、結構熱中した。


全問埋まったので砂時計を見ると、もう少し時間が残ってたのでケアレスミスを確認する。



「ほお、感心じゃな」


「全くですね」



後ろから声がしたので振り返ると、バージル先生とアリー先生がめっちゃ見てた。



「少し早いですが、テストは終了にしましょう。せっかくですので採点もしてみます」



そう言ってアリー先生は砂時計の台座を軽く叩くと、サラサラッと落ちていた砂の流れが止まる。


うっは、魔道具だよこれ。


驚いて砂時計に見入ってたら、アリー先生は「これすごく便利なんですよ」と言って、何回か砂を落としたり戻したりして見せてくれた。



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