第6話 周囲公認の仲
「おはよー綾! 元気になったんだね!」
登校するなり、いきなり朝野が綾に抱きついた。
綾はそんな朝野をいつもの天使のような慈愛の瞳で見つめながら宥めるように頭を撫でる。
「日菜ちゃん、ありがと。もう大丈夫だから」
「本当に心配したんだから! 今度からしっかり連絡してね!」
「うん、もちろん。心配してくれてありがと。」
本当に昨日までとは別人のように今日の綾は天使そのものだった。
綾が無事登校したお陰かクラスの生徒達も活気に溢れているように見える。美人の力ってすごいな。
「おはよー、綾ちゃん。無事登校してくれて何よりだよ。これ食べて今日も頑張って!」
「私からもこれ! 甘くて元気出るよ!」
「私も綾ちゃんにお気に入りのアロマあげる! これでゆっくり休んで!」
「私は居ない間のノートとって置いたよ!」
「みんなありがと、ありがたくもらっておくね!」
女子達から大量の貢ぎ物を受け取った綾は明るい微笑みを返した。
すると女子も男子も皆が綾の眩しいほどの微笑みに目を奪われただ立ち尽くす。
クラスの誰からも信頼され、尊敬される。本当に恐ろしいほどの力だ。この教室で……いや、この学校で綾に嫌われた場合は正しく学校生活終了を意味することになるのだから。
昔から綾は世渡り上手だと思っていたが……高校に入ってからは更にそれが進化しているように見える。
「それから……皆に聞いて欲しいことがあるの」
皆が綾に見惚れる中、綾がそんなことを言った。
先程よりも多くの生徒が注目する中、綾は衝撃的なことを口にした。
「私、悠斗と付き合うことになったの」
その瞬間クラスがしんと静まり返った。
そして同時にクラスの皆視線が俺へと向けられる。
「え、本当に! おめでとう二人とも!」
最初に反応したのは親友の日菜。
「ありがとう日菜ちゃん! これから頑張るよ!」
今、綾なんて言った? 付き合う?
未だに理解が追いつかずぼーっとしていると生徒達がおれと綾の元へと集まってきた。
「え!! いつから! いつから! 告白はどっちからしたの?」
「くぅぅぅ……やっぱりか……久我! お前が羨ましいっ!」
「やっぱりそうだよね! 二人お似合いだもん!」
「はは……なぁ、俺は夢を見ているんだよな……? 神室さんが付き合ってるなんて……」
「いや、俺もしっかり聞いた……いいか、落ち着いて聞け……これは現実だ。」
皆が様々な言葉をかけてくるが俺は一切耳に入って来なかった。
綾の思考が読めない……
何故みんなの前でこんなことを言ったのか。
何故付き合っていないのに付き合っていると言ったのか。
それがどうしてもわからなかった。
「ごめんね、みんな。悠斗が困ってるから。」
「あ……ごめん……久我悪かったな、また落ち着いたら話聞かせてくれ」
「綾ちゃん、ごめんね。ほらみんなー! 撤収ー!」
「……」
「……ほら、戻るぞ。」
綾が一言そう言うだけで皆が大人しく引いていく。彼らにとって綾からのお願いは絶対的なものなのだろう。
皆が周りからいなくなったところでようやく状況が理解できた俺は綾に話しかけた。
「……なぁ、綾。どうして……こんなことをしたんだ?」
「ふふ、皆に知られちゃったね。私達が付き合ってること。」
「な、何言って———」
「だってそうでしょ? キスまでしたんだから……これで付き合ってない方が可笑しいと思わない?」
確かにキスはしたが……あれは事故というか……無理矢理だったというか……
綾は困惑する俺を見て嬉しそうに微笑み、俺の耳元で優しく囁いた。
『これで悠斗と私は周囲公認の恋人同士……くれぐれも他校の女なんかと浮気しないでね? 悠斗』
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