第5話 夢
なんだ……ここは……
暗闇の部屋。
だが目を凝らしてよく見ると見覚えがある。子供の頃に何度も訪れた思い出の場所、幼馴染の部屋だ。
俺は部屋の中央の椅子に拘束されていた。
拘束を外そうと力を入れてみるがビクともしない。どうやら絶対逃げられないようなっているらしい。
何故俺はこうなっているのか、ここまでの経緯が全く思い出せない。
とりあえず、誰かに助けを———
助けを呼ぼうと叫ぼうとしたところで部屋の扉がゆっくりと開いた。
「悠斗、ご飯持ってきたよ」
幼馴染の綾がトレーにおかゆらしきものを乗せていた。
そして隣の椅子に座ると一旦机にトレーを置き、俺をじっと見つめる。
「あ、もしかして悠斗また逃げようとした? これで何回目だっけ? もう覚えてないや。後でお仕置きが必要だね。でも安心してね、悠斗は私から絶対に逃げられないから。」
綾はおかゆの入った器を手に取り、スプーンですくうとふーふーと子供に与える時のように冷ましてからスプーンをさしだす。
「はい悠斗、あーん。」
差し出されたスプーンを俺は言われるがままに咥える。
「食べれてえらいね。良い子、良い子。」
そう言って微笑み俺の頭を胸に抱き、優しく撫でる。
「今日で同居してから丁度一年……毎日が楽しいね、悠斗。」
同居? どういうことだ?
返事を返そうとしても声が出せない。
何故だ……何故声が……
「ふふ、ごめんね悠斗。無理させちゃって」
そして綾は俺の耳元に口を寄せ囁いた。
「でも大丈夫……私がずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーっと、一生お世話してあげるからね。」
◇
「っ!? はぁ……はぁ……夢、か……」
俺が飛び起きるとそこはいつもの自分の部屋だった。
全く、何故あんな夢を……
未だに最後に囁かれた言葉が耳から離れない。夢だとは思えないレベルだ。
もし今のが予知夢だったとしたら……いや、そんな事はないだろう。流石の綾もあそこまでするわけが————
……ないはずだ。
「しかし……どうしたものか……」
昨日は濃い1日だったな……
綾の依存を直すために彼女が出来たと嘘を着いた。だがそれは逆効果だった。結果的に綾は更に俺に深く依存してしまったように見える。
まぁ、幸いなのは俺に本当は彼女がいないことだ。もし本当にいたらどうなっていたのか分からない。
「とにかく新しい手を考えないとな……」
「何を考えるの?」
「ん? うおっ!?」
声をかけられ見ると、制服姿の綾が扉から顔を覗かせこちらをじっと観察していた。
「おはよう、悠斗。」
「お、おはよう……というか何で入ってこれてるんだ? 鍵父さんと母さんが持ってるの合わせて二つしかないんだが……」
尋ねると綾はよくぞ聞いてくれたというような笑顔でポケットからキーホルダーの着いた鍵を取り出した。
「これ、前に悠斗のお母さんに作ってもらったんだ。うちの息子をお願いねって。」
母さんは綾のことが大好きで昔から本当の娘のように接していたからな。信用されている。
「今までは使うつもりなかったんだ。だって勝手に入るのって何だか失礼でしょ? でももう遠慮しない。してたから私は奪われたから。」
そして何かを決意したような表情で告げる。
「今度からずっと一緒にいようね、悠斗。」
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