第10話 離れる時

――――――真夜中。


ふと目が覚めて、僕は信愛を探していた。


「…信愛。信愛…信愛は?」

「うん…?あの人なら家だよ。ここ、あたしの家…。」


「信愛…。信愛!…信愛!!…」


僕は起き上がって膝を抱え、頭を抱えて半覚醒でそう叫んでいると、真凜は僕を優しく包み込んだ。。


「大丈夫。あたしいるよ。大丈夫。真凜いるよ。ほら、真凜いるから。」


真凜は遠い日のことを思い出した。

僕らがまだ中学生の時、何回かお互いの家に泊まった。その時に数回こういうことがあった。

学校の保健室でうたた寝してた時もあった。


その度に真凜が来てくれてこうしてくれた。


『大丈夫だよ。真凜来たから。大丈夫だよ。』


別れた後も続いていた。



僕がそのうちに真凜に身を任せてまた寝息を立て始めると、


「久しぶりだね…。まだこれあったんだね。懐かしい。。」と真凜が囁いた。


でも、少しずつ、少しずつ、何かが変わってきていた。




――――――朝方僕はまた夢を見ていた。

中学の時の僕と真凜がそこにはいて、

真凜が誰かと歩いている姿が見えた。


僕は気が狂いそうになっていた。


『真凜!!…真凜!!……俺の真凜なのに!!お前は俺のなんだよ!!』


僕はまたそのタイミングで起き上がって、


「真凜!!お前は俺のなんだよ!!ずっと俺のなんだよ!」と寝言を言っていた。


すると、真凜は驚きつつ笑っていた。


「次はなんの夢見てんの。」



真凜の横で体を丸めて塞ぎ込む僕を包み込んだ。


「大丈夫。あたしはここにいるよ。」

「真凜…真凜…どこも行くな…真凜…」

「行かないよ。あたしはここにいる。」


僕がゆっくり目を開けるとそこに真凜が居た。


僕は静かに真凜に口付けた。


「真凜…」

「いるよ。真凜ここだよ。」


僕はまた子供のように真凜の胸の中で眠り始めた。



――――――――――――朝食。


「侑海さぁ、信愛さんのまえでもあれあるの?夢遊病みたいなの」

「わかんない。俺またやったの?」

「やってたよ。」

「ごめん。」

「ううん。大丈夫。慣れてるから。」


僕は手を止めて立ち上がって向かいに座る真凜を後ろから包み込んだ。


「……」

「どうした?」

「真凜。どこも行かないで。」

「大丈夫。行かないから。」

「嫌な夢でもみた?」

「最近ずっと」

「なんか抑え込んでたりする?」


「……真凜。」

「うん?」

「俺ね、」

「うん」

「ずっと後悔してた」

「何を?」


「お前と別れた事。」

「知ってる」

「うん。」

「だからあたし、あんた意外と寝てないから。別れた後も何回かしたよね?でもあたしには相手いなかったしあんたも信愛あのひと以外傍に置かなかった。…嫌だったからだよね?あたしの知らない人をそばに置くのが。」



真凜は昔からそう。

僕の考えてることを全て当ててくる。


「…真凜。激しいのしよ?」

「ちゃんとケジメつけられる?」

「……。」

「まぁね。あんたには難しいもよね。あの人から離れるのは母親を失うのとおなじ。怖いよね。」

「…真凜も信愛みたいになれる?」


「うーん。私はあの人にはなれないな。けど、あたしはあの人の次にあんたを見てきたから。

だから、あんたの期待には添えると思う。」


「嫌われるかも」

「嫌わない」


「……」

「信じれない?」

「大丈夫。」





―――――――――その日の夕方。


信愛との家に一度寄った。

信愛に居場所だけは伝えていた。


僕の顔を見るや否や、ぶん殴られるかと思ったら、強く、強く、僕より少し背の高い信愛に抱き締められた。。



涙が溢れて止まらなくなっていた。


「寂しかったよね。」

「うん…」

「アホやな。どもならんな。」

「ごめん。」


「居場所はわかってるからええけど、気に入らんわ。」

「ごめん。」

「……戻したくないな。」

「……」

「また行きたいか?どうなん。」


「わからん。」

「なんて?」

「わからん!!もうわからん!!」

「なにがわからんの。」


僕は泣きながら訴えていた。

信愛に対しては子供の部分が全力で出る。


「どうせみんな同じやん!!親にはならんやん!!我慢しなあかんやん!誰も信愛にはなってくれへんやん!!……真凜だってそうやった!!信愛にはなれんて言われた!!誰も信愛にはなってくれへん!!……あーー!!!!あぁーー!!!!」


1人で叫んでいた。

信愛の前でこうなったのは指折り程度。

対処法なんてわからなくて、すぐに真凜に電話をかけた。


「ごめん…来てくれない?止められない…。」

「どうなってます?」

「暴れてる。」

「どんな話しました?」

「……誰もわたしにはなれはい。なってくれないって。」

「信愛さん。出来ないですか?」

「ほっとくことしか出来ない。」

「私にどうしてほしいんですか?」

「……あいつを止めて欲しい。」



――――――――――――10分後。


真凜がうちに来て、疲れて塞ぎ込んで膝を抱え頭を抱え耳を塞ぐ僕を見て。


後ろから僕を抱きしめた。


「大丈夫。真凜来たよ。もう大丈夫。」


僕はまた叫び始めた。収まらなかった。

真凜から逃げてここに来た。なのに、真凜の声に包まれていく僕がそこに居た。


「あーー!!!!」


僕は真凜から逃げようとしたが、真凜は僕を逃がさなかった。


「離せ!!要らん!!お前なんかいらん!!」


すると真凜は冷静に言った。


「そんな言葉信じひんから。私は信愛さんにはなれんし、なる気もない。けど、私はあんたがどうなってもちゃんと話が出来る。そうやろ?」


「……お前なんか嫌いだ!!どっか行け!!消えろ!!消えろ!!」


それでも真凜はひるむことも涙することも無く僕をさらに強く抱きしめた。


「ほんまは?ほんまはどうなん?うてみ。」


真凜は冷静だった。


「……真凜が好き。」

「聞こえない。もっと。」

「……」


僕は真凜の首を絞めてキスした


「黙れ…」


すると真凜も同じく僕の首に手をかけた。

僕が直ぐに手を離して微笑むと、


「それでいい。わかってるから。怖がらなくていい。全部わかってて私はここにいるから。」


と言ってまたすぐに手を離して僕を抱きしめた。


僕は真凜越しに信愛を見ていた。

叫びたかった。

信愛がよかった。


けど信愛は僕の目線をあわせなかった。



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