天晴れ

 彼は短気であったが、あべこべに腹が立たなくなり、馬鹿にされ、踏みつけられ、裏切られ、それでも平気で、つまり実質的な自信がある。大人に卑屈なほどのお世辞を使い、大人の悪意の籠った背信に平然三年間も人事のように柳に風、すべては昇運の勢である。

 けれども、実際は狭量で、変質的に嫉妬深く、小さなことを根にもって執拗に又逆上的に復讐する男であった。その気質を俺は知っていた。それに対処する方法は、親しんで狎れず、ということで、一定の距離を置き、その距離を礼節で填める方法だった。

 彼の心は連日の深酒と荒淫で晴れ間のない空の如くに陰鬱であった。何処の美女を集めても心は晴れず、魂は沈みこむばかりであった。不健康は顔にあらわれ、面色は黄濁し、力の加減も分からないどうしようもない馬鹿になっている。

 捻くれや大人に対する復讐心、そこから生まれる堕落の美を彼から教えてもらった。

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