6-(4/7)全世界への宣戦布告


 自分自身に……言い聞かせる。


 発する〝言葉〟が御劔ミツルギの受け売りや、彼から教わった情報を頼りに立てた内容だと視聴者に悟られることは許されない……堂々としろ、表情を作れ、毅然きぜんとした態度をとれ、一から十まで僕が一人で知り、考えたていでいけ。められたら終わりだ。


 御劔ミツルギが撮影してくれる動画が、僕の人生を動かす。


反社ヤクザの連中、民間企業、公社、無所属犯罪者チンピラ・ゴロツキ、お前らの魂胆こんたんは分かってる。僕を……深川フカガワサグルを甘く見るな」


 本当は分かっていなかった。全て御劔ミツルギが教えてくれた傾向パターン懸念リスクだ。実際に発生した過去の事例を資料として挙げながら多くの悲劇を見せてくれた御劔ミツルギは、端末を構えながら僕を見守る。


「まず反社ヤクザや企業、国が分かりやすいな。僕、つまり深川フカガワを『お抱え』の論者プレイヤーにしようと企んでも無駄だ」


 国内七大論戦セブンス・ワーウルフの多くは、初手から意図的に退場することが可能である。秩序ちつじょりや整理せいりり処理をくらいかねない雑魚ざこの位置として見做みなされるように手を抜けば一発だ。


 退場、つまり死亡。


「僕を脅す奴、金や何かの交換条件を積んで従わせようとする奴、そんな奴らがいたらなびいたフリだけして初日に……自分から処刑されに行ってやる。僕はもう金なんて持て余してるし、誰の所有物にもなってやらない。それで困るのも損するのも、お前らだろ?」


 嘘やハッタリではない、僕は覚悟を決めた。


「次に短絡的な半グレや犯罪者、僕を襲って金を得たいなら止めはしない。でもな、よく聞け……言っておくがこれから何倍も何十倍も、稼ぐぞ?」


 衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフの〝次回〟に参加する必須条件となる国内七大論戦セブンス・ワーウルフにも、当然ながら賞金は発生する。今ここで僕から一度分の賞金を奪うよりも、泳がせる方が合計の利益は高く見積もることができる。バカでも分かるはずの最適解。



 だが、一つ問題が残る。


 説明が必要なほどの愚者は、そもそも説明を聞きもしないし読まない、考えない。言葉が通じない。

 そんな奴らの自由意志に天命を委ねるのは自殺行為であり〝別な連中〟に交渉し働きかけることで生存率を高める必要がある。


「話を戻す、なあ反社や企業……お前らは僕の視界に入ってくるな。その上で、僕を単独チンピラ落伍ゴロツキから守れ。金の卵を産むガチョウを育てる機会チャンスを与えてやる、って話だ」


 強権が不当に〝論者深川プレイヤー・フカガワ〟を恭順させようとしても、絶対に従ってやらない。衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフで一度勝利した以上、スラムの仲間達は賭け金で蓄えを増やし蜘蛛の子を散らすように上手く逃げおおせているか、殺されて利益を奪われたかの二択だ。

 

 つまり、この身一つ以外に僕が失うものはない。


 僕を思い通りに動かしたいなら機が熟すまで守り抜いてみろ、それが世界への要求であり宣戦布告である。


「強い集団は、賢いからこその強権だろう? だったら、じっくり考えろ。どう動くのが自分達にとって得になるかをな」


 最後に到達点を決めなければならない。


国内七大論戦セブンス・ワーウルフを僕が全て攻略したあかつきには、お前らを対話のテーブルに上げてやる。スカウトも交渉も検討しよう。僕は命と人生を担保に自由を要求する、世界はそれに従え」


 現段階では、具体的な案も勝算もない。今は、自由猶予モラトリアムを引き延ばすより他ないのだ。


「派手に動いて大会を一つずつ潰す姿を見せてやる、その方がハクが付くってもんだろ? 僕は勝ち続ける、絶対にだ。だから……お前らは黙って全額賭フルベットしておけ!」


 御劔ミツルギが親指を立て、撮影が終了した。


 

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