5-(7/7)殺戮者の独白


 王賀オーガが処刑された夜、伸び続けるチャット記録ログ

 

『普通あそこで警備セキュリティかたるか?』


『騙らないだろ?』


『はー、つっかえ。王賀オーガつっかえ。使えない男』


『まあ分からなくもないよ、私が処刑されてたかもしれないし。蝶野チョーノだけが名乗って警備セキュリティシン確定したら王賀オーガ御劔ミツルギ達よりも私が今日処刑される可能性のが高かった』


 三人目こと早乙女サオトメは、終狼ラストウルフになるやいなや口数が多くなっていた。


『でも別にいいんだよな、私処刑されても。殺しとけよ』


 僕は、思わず息を飲む。


『勝てよ最善の策使ってさあ処刑されてんじゃねえよ落とせよ衛星をあの国に死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』


 まるで、別人。


 何が彼女をここまで駆り立てていたのか。


『明日は殺す絶対殺す純東亜人は死ね全員死ね特に深川フカガワ


『本当は御劔ミツルギを殺そうと思ったアイツは絶対に純東亜人。でも生い立ち聞いたら深川フカガワの方が不快だ、仲間だと思ったのに』


 突然、僕の名前が出てきた。


『なーにがスラムだよ巻き込まれました被害者ですみてえな顔しやがって最悪飢えたら国に尻尾振って東亜保障受けれんだろ病院だって使えんだろ恵まれた立場にいる自覚ねえのかよカスがよクソ深川死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』


 口調の荒さには目を瞑りつつ、僕の立場は確かに早乙女サオトメが入力した文章の通りである。


 スラムとは言えども健康保険や……飼い殺しとは言え生活保障は存在するし、怪我や病気にかかれば医療機関に駆け込むことも可能なのが僕だ。そして、文脈から察するに早乙女は純東亜人と僕や御劔に相当な憎しみを燃やしていた。


 続きを読み進めるのが、怖くなる。



「なあ、御劔ミツルギ……チャット記録ログ、最終日の昼間や処刑前って何が書いてあった?」

「なんだ、深川は閲覧していないのか?」

「言っちゃ悪いけどさぁ、ありふれた僻み妬み恨みつらみだよねぇアレ」


 御劔ミツルギ管木スガキは最後まで目を通したらしい。


 早乙女サオトメの父は劣悪な環境で酷使される重労働がたたり身を持ち崩し、とことん処置を後回しにされた挙げ句に命を落とす。

 母親は心を病んだ上に搾取を受け蹂躙という仕打ちを受け死亡、早乙女の弟もまた虫ケラのように扱われ嬲り者にされた末に行方不明。


 全て、早乙女サオトメが十五歳までの間に起きた出来事とのこと。


 被差別階級アジア系移民でありながら純東亜人として振る舞っていたのが早乙女サオトメであり、どうやら彼女から見て僕も同類と思われていたらしい。互いの生い立ちを話したのは衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフの初日と、王賀オーガが処刑された五日目の議論途中に挟まる休憩時間。


「前の日に名指しで書かれてたのはクるかもだけどさぁ、それで深川フカガワお兄ちゃん……そっ閉じして残りはシカトぉ? ざっこぉ〜」


 管木スガキに煽られるが返す言葉もない、思い返せば僕は常に楽な方へ楽な方へと逃げ、目を背けてばかりだった。


 返す言葉もないが、あらゆる物事に怒りが湧く。


 まず真っ先に早乙女サオトメ、一方的に僕の立場を誤認して勝手に仲間だと期待した挙げ句に怒りを向けるのは理不尽だ。

 参加者の精神性にも僕は共感できない、特に蝶野チョーノ。地球に居た頃は僕だって命に執着がなかった、でも生存者特典の賞金を得られれば数十年は安泰なんだぞ?

 慎ましく生きれば一生の生活が保証される額だ、そのチャンスがあるのにむざむざと、あんな穏やかに?

 蝶野チョーノ王賀オーガも「陣営が勝てば良い」と判断する精神性が、僕には分からない。自分の命を何だと思っている?


 僕は僕自身にも衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフにも、ふつふつと怒りを覚えた。

 死の恐怖から解放され熱が冷めたからこそ、生じた感情なのかもしれない。


 宇宙開発資材衛星を改造した〝会場〟は、生存者を地球へ帰還させるために軌道エレベーターへ移動を続ける。


(備考)


 エッセイのマイブームが来ていて衛星墜落論戦のストック増えないのでエッセイ禁止にしようか迷ってます。


 衛星編のあと最低3戦の人狼ゲーム予定でしたが、たくさんやりたくなって10戦以上に増えました。

 拳銃射殺論戦だけで4戦書き終わり、全て(僕としては)執筆してて楽しかったです。


 新規キャラクターの名前や設定増やすのが辛い、人狼ゲームの配役や内訳よりも人物名称の方が頭を抱える……

 

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