5-(2/7)無自覚な、視点漏れ


 最終日は、投票後に設けられていた〝最期の一時間〟が存在しない。

 閉ざされた私室で無機質なメッセージだけを個人識別板パーソナル・カードから受け取り、投票結果が確定すれば即刻処刑が実施される。


『同数二票により、再投票』


 やはり、この状況は明らかに……おかしい!

 辿り着いた答えは、誤りではなかった!


『五分以内に再投票を行わなければ、投票権を失効』


 あとは〝人間〟が気付き、伝わってさえくれれば。

 人間は十中八九、僕に投票している。そこから考え、真実に到達してくれ!


『再投票結果、サオトメ三票、フカガワ一票』


 おそらくは早乙女が事切れ、五分経ち十分経ち、僕の部屋に二酸化炭素が充填される気配はない。それどころか私室のロックが解錠、これは早乙女が狼だったことを意味している。

 

 僕達は、勝利した。


『サオトメの処刑、実行完了』


 報酬や権利を受け取る前に、速やかな議論ホールへの集合と一時間の会話が義務付けられている。

 スラムの仲間達と練習していた頃も、少人数最終日までもつれ込んだ試合の後は感想戦として意見を交わし盛り上がったことを思い出した。


 観戦者に対するサービス、僕らはどこまでも見世物小屋の猿というわけか。


「一番のざぁこは、私だったね。深川お兄ちゃんさぁ、何で早乙女に入れたの? 御劔お兄ちゃんの影響?」

「私もそれが気になる。言うのもなんだが、私の推理も確証はないはずだ。深川の中で根拠が増えたのか?」

「早乙女は〝視点してんれ〟を犯していた。あれは僕にしか……気付けない」


 御劔の推理はもちろん参考にした、菅木の主張も早乙女の発言も。

 

 その上で、初日と四日目の違和感を僕は思い出す。


『あーあ……幸先、悪いですねこれ』

『でも、良かったですよね? 狼の一人はどうにか処刑できて!』


 どちらも早乙女の発言。

 

 突然死したチンピラと茶髪の女、役騙りをしたチンピラはともかくとくて女の方が人間か狼なのかは、あの時点で誰も知り得ない。

 結果的に消去法から人間と判明したが、あの段階でそれが分かるのは互いに仲間を知る狼達だけである。


 関西が処刑された際の反応もおかしい。軽曽根が襲撃されたことで自動的に露呈する関西クロという結果は、目を輝かせて喜ぶようなものではないはずだ。


「なるほどねぇ、早乙女お姉ちゃんは大げさに悲しんだり喜んでたんだ。私、分からなかったなぁ」

「狼は人間になりきり、トレースしなければならないからな。深川、他にもまだ理由はあるか?」

「ああ、その二つに加えてもう一つの根拠が最終日に生まれた」


 御劔の言うとおり、狼は人間を演じる。狼を処刑できなければ憂い、人間が無駄死にすれば悲しむのが道理。

 早乙女はそこに固執するあまり、狼達にしかえていない「茶髪の女は人間」という情報から「幸先が悪い」と悲観してしまった。

 

 シロを知っているゆえに起こる、視点漏れという事故である。

 

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