4-(6/7)最後の朝


『狼陣営、襲撃成功。死亡者、チョウノ』


 個人識別板パーソナル・カードに映し出される無機質な文字。

 総数四名、調査サーチによる情報が一切ない六日目が開始した。


「私、菅木さんが狼だと思います。深川さんと御劔さんは……信じたい」

「深川お兄ちゃんさぁ、昨日最初から王賀と二人きりだったじゃん? あれめちゃくちゃ怪しいんだけどぉ」

「しかし、深川の発言がなければ王賀を処刑することも出来なかったろう。私も奴の矛盾に気付けなかった」

「僕以外、お前ら三人は一度も王賀と接触してないのか……」


 接触記録。

 議論ホールで行われる投票前後のやり取り以外、半径三メートル以内で十五秒以上の接触が確認された参加者は個人識別板に記録される。

 それを嫌がり三メートルより離れた位置から長々と話し込むような真似は、目立つ上に不審に思われるので誰も行わない。


「菅木さん、もし打ち合わせしていたなら深川さんは……王賀さんを守るように動きませんか?」

「それを狙った、って可能性は? 現に深川お兄ちゃん、最終日に有利とれてるじゃん。王賀を処刑した功労者みたいになってるし」

「話は変わるが、決め打ちか灰処刑か悩んでいた段階で王賀は早乙女の処刑を強く主張していた。だから、私は早乙女が少し白いと思う」

「分かるよ御劔。それに、早乙女本人も王賀を処刑しようとしていたしな」


 だが、一貫して王賀処刑を希望していたのは菅木も同じだ。

 何なら最初に蝶野を処刑しようとした僕や御劔の方が、立場は悪い。


「半田さんの時も、深川さんと御劔さんは庇ってましたし……だから、やっぱり私は菅木さんが狼だと思います」

「王賀が早乙女お姉ちゃんを推してたのなんてさ、ライン切りじゃん! それに御劔お兄ちゃんや深川お兄ちゃんだって、狼で半田の白見えてるなら庇うの楽勝なんですけど?」

「菅木、君はさっきから何なんだ。早乙女が王賀を推したこと、私や深川が半田を庇ったことはどちらも、私達が人間でも狼でも発生し得る状況だ」

「僕が王賀と最初からホールにいた件にしても、な」


 ライン切り。

 狼同士が、自身が先に処刑される状況を意識し以後の展開で強く立ち回る為に、意図的に推し合って対立構造を演出する行為を指す。

 菅木は早乙女と王賀の二狼を想定していると言わんばかりの口振りだが、昨日の様子は早乙女が人間かつ王賀が狼でも成立する。


 正午となり、無言で私室に戻って昼食をとる。

 錆の味がする茶色い水とボソボソのレーションで腹を満たし、十三時から議論が再開された。

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