4-(5/7)死への恐怖


「起きてる視聴者、見てる奴ら、いるか?」


 部屋の角には機銃、反対の角には監視カメラ。

 カメラに向かって僕は語りかける。


「僕は、心のどこかでイキってた」


 高をくくっていたのだ。

 投票による処刑なら僕よりも優先して殺される弱者がいるはず、襲撃に際しても灰である僕の前に役職や白通知貰いが狙われるはず。


 そう考えていたし、今でもそれは間違ってなかったと思う。


 要するに、死に対する実感が希薄だった。


「初日に倒れる奴がいても、全身から血を流して死んだ白戸の死体を見た時も、まぁこんなもんだろと片付けていた」


 それに、夢も希望もない人生でいつ死んだところで問題ないとすら考えていた。

 僕の命も参加者の命も、地球の人間も、命という命は全てポーカーのチップよりも軽いと思っていた。


 だが、それは違う。


「今は正直言って、怖い。死ぬのが嫌なのかは分からない、生きてどうしてもやりたいこともない、でも……震えが止まらないんだ」


 どうあっても、恐怖心は払拭できない。

 いよいよ以て死の可能性が迫り、死神の鎌を首元に当てられた今となって初めて、僕は死の恐怖と生の実感を噛み締めている。


「泣き言は口にしない、しても逃げられないことは知っている。でも、スラムの仲間で衛星墜落論戦を見てる奴がいたら……目指すな。夢を見るな」


 斯詠カクヨミ組の連中に声をかけられた時は、どうして僕がと思った。

 もっと他に人狼ゲームを楽しんでいた者や得意とする奴らもいたし、もし生きて帰ったら次はそいつらを応援しようとも考えていた。でも、こんな企画を広めてはいけない。


「賭ける奴も楽しむ奴も参加しようとする奴も、みんな揃って熱病に浮かされたバカ共だ」


 思いの丈をカメラに向かって伝え、カビ臭いベッドに潜るも眠ることが出来なかった。

 身の丈にあった、その日暮らしの生活を送るべきだったのではないか。囲まれても銃を突きつけられても、死んでいた方が楽だったのではないか。王賀を処刑したという自分の判断は間違っていなかったのか。そんなことばかりを考える。


 日付が変わり、午前八時。


 僕はまだ生きている。


 つまり、関西と王賀が狼だった。

 

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