4-(4/7)命の再確認


『本日は五日目、参加者は六人、警護の候補が吾輩と蝶野だった以上……二狼残りは確定である』


 大柄で精悍な顔立ちの王賀が始めた演説を、各々が私室で鑑賞していた。


『つまり、警護である吾輩を処刑し新たに今夜襲撃が発生した瞬間に人間陣営は死滅する』


 参加者が六名で狼が三名のタイミング、あるいは参加者が四名で狼が二名のタイミング。

 これが確定した時点で狼陣営の勝利とされ、人間が留まる私室の全てに二酸化炭素が充填される。


『吾輩を処刑したことを後悔しながら、訪れぬ朝を待ち焦がれ震えて眠るが良い』


 恨みつらみと煽りを冷淡に述べた王賀は、視聴者へのメッセージを送りはじめる。


『我が社の社員達は皆、吾輩の生存と陣営勝利に賭けていたはずだ。個人資産も社の資本も大きな痛手を負う、すまなかった』


 そう、これは賭博である。

 

 王賀や僕のように、背負うものを持って参加した者も存在する。


『業務の引き継ぎは弟に任せた、路頭に迷う者もおるまい。吾輩は……選択を誤ったかもしれぬ。だが、後悔はない』


 僕が処刑されたら、死の間際に何を思うのだろうか。


『その場その場で考え、決断し、戦い抜いた。だからこそ、諸君らも戦え!』


 僕は王賀とは違う、無理やり参加させられた。

 選択の余地もなければ、基となった人狼ゲームだって嫌いだ。

 後悔して世を呪うか惨めに命乞いするかは分からないが、僕が彼の立場ならこんな……清々しい雰囲気で逝くことはありえないだろう。


『王賀敗北の汚名をそそいでくれる者が現れることを、吾輩は願っている! 疑い、騙し、詰り、追い込み、生き残り、そして……勝て!」


 とことん、ろくでもない企画だ。


『富を、利権を、名声を……手に入れろッ! 堕とせるのなら目障りな企業へ、国へ、衛星を叩き落とせッ!』


 どこまでも、碌でもない世界だ。


『諸君らには〝それ〟が許される……さらばだ』


 椅子に腰掛け脚を組み、両手をどかりと手すりに乗せた王賀は、座したまま息絶えた。


 襲撃を受ける参加者も、勝敗が決した際に皆殺しにされる人間陣営も、私室に二酸化炭素が充填される時間は完全にランダムである。

 二十三時から翌八時までの様子もまた世界中に配信され、それを憐れむ視聴者もいれば愉しむ変態も存在した。


「シャワー、使うか」


 見世物にされないプライバシーが保証されたユニットバスは、使用時間が三十分と定められている。


 震える心と体を温めながら、まだ〝命〟が残っていることを僕は確かめた。

 

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