4-(3/7)五日目の投票
思い……出した。
しかし言語化が難しい。
時刻は二十一時をまわり、投票の最大期限とされる二十二時まで一時間を切っている。
「なあ王賀、お前……〝驚いて〟いたよな。蝶野が対抗として現れた時に」
「確かに吾輩は驚いた、だが……それがどうした?」
確かに「それがどうした」かもしれない。彼が警備なら、蝶野の様子を見て命知らずの狼もいたものだと驚くのも無理からぬことかもしれない。しかし、僕の中には違和感が残る。
そう思った矢先、御劔が口を開く。
「王賀の行動は四日目の発言と矛盾している。深川、君のお陰で私も気付くことができた」
御劔が着目した〝矛盾〟は、場の誰もが覚えていた発言。しかしながら、取るに足らない些事として置き去りにしていた会話に端を発するものだった。
――――ざぁこなギャルの方が真で、つよつよな
――――吾輩は驚かん。狼が役を騙るのも、その中に手練れが紛れている事例があるのも当然のことだ。
王賀は〝本来〟であれば、騙りの存在には驚かない。にも関わらず、蝶野が対抗してきたことに驚いた。
「どうして王賀は驚いたか。どんな魂胆で警備を騙ったか、僕も辿り着いたよ御劔」
四日目の会話から、場に存在しない白戸が警備である可能性が高いと判断した王賀は襲撃を企てる。
警備が別に存在し、白戸を護衛したとしても奴には本物を轢き殺す自信があったのではないか。
最も〝手強い位置〟は御劔だが、彼が警備ならきっと軽曽根を護衛したことから可能性を除外、早乙女と僕は早々に警備ではないと宣言。
「アタシか菅木チャンが警備でも王賀サマは勝てる自信があった、それ以前に白戸クンを警備として見ていた……ってコトよ」
「そっか、王賀さんは警備の死亡を確信して……乗っ取りを考えてたんですね?」
「なるほどねぇ、確かに私も白戸お兄ちゃんが警護の可能性……ちょっと考えてた」
襲撃先として死亡者の部屋を選択した場合や、襲撃前に本人が死亡した際にも「護衛成功」と通知が届く。
白戸の突然死を受け、これ幸いと警備を騙り場を支配しようとした王賀は、蝶野という思わぬ伏兵の存在に動揺してしまった。
「貴様ら二人が自説を曲げず、早乙女と管木も流されるようでは吾輩の勝ちの目は消えたな」
反論を諦めた王賀を横目に、蝶野は紙とペンを取り出した。
「深川クンか御劔クンさ、どっちでもいいけど無事に生き延びたら……ここ、行ってみてあげて。アナタ達二人は人間でしょ?」
蝶野は、飲食店の住所を書き記した小さなメモを机に置く。
「アタシさ、今夜襲撃されて死ぬから。その住所、世話になってたお店なの」
「そんなことを言いながら、その女が狼だ。吾輩の命も……人間陣営の命も今夜消える。考え直すなら今のうちだぞ?」
総数六名。
王賀に五票、蝶野に一票。
全員が、私室に向かい歩き出した。
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