4-(2/7)疑心暗鬼


 私室に戻り昼食を挟み、夕刻から議論が再開される。二日前とは打って変わって、他者の部屋を訪れたり説得や誘導を行おうとする者は存在しなかった。

 昨日は〝警備セキュリティ〟を汲み守るため、今日は各々が自身を守るため、誰も彼もが他者を信用できなくなっている。


『ざぁこなお蝶野チョーノおばさんが狼だったらさ、王賀オーガおじさんじゃなくて例えば私とかが警護セキュリティでも、勝ち目なくない?』

『それに、命に執着なさそうだし。そういうとこもざぁこなんだけど』


 僕は、私室で管木スガキの主張を思い出す。

 前提として蝶野チョーノ早乙女サオトメは発言力も立場も弱い、蝶野チョーノが狼だったケースを考えてみる。


 想定される事項①

 蝶野チョーノ警護セキュリティかたり、本物の警護セキュリティが対抗として名乗りを上げる。


 想定される事項②

 警護セキュリティの決め打ちではなく、グレーの仲間に処刑リスクが飛び火する危険性が生じる。


 それならば、黙って処刑され〝仲間〟に四人最終日を託すのではないかというのが管木スガキの主張。


『なあ管木スガキ蝶野チョーノが〝警護セキュリティあぶり出したかった〟可能性はないか? 本物の警護セキュリティを早晩、襲撃するために騙って炙り出す』

深川フカガワお兄ちゃん、ざっこぉ。だってさぁ、蝶野チョーノおばさん……出遅れてたじゃん』


 管木スガキの発言から、盲点に気付かされた。

 蝶野チョーノの行動は確かに「王賀オーガが名乗ったから対抗した」という流れである。

 蝶野チョーノが狼なら、警備セキュリティを騙らず処刑を逃れ黙って王賀オーガを襲撃するか、自分が死んでも仲間に託せばいい。


 早乙女サオトメの主張も、考えよう。


王賀オーガさんが狼なら、警護セキュリティを騙らなければ蝶野チョーノさんを抱きこめましたよね?』


 王賀オーガは立ち位置も発言力も強かった。


 彼が狼かつ蝶野チョーノ警護セキュリティだとしても〝人間〟として振る舞うことで、前日までの流れから蝶野チョーノを味方につけられる公算が大きい。

 王賀オーガ蝶野チョーノ王賀オーガ以外の狼、これにより六人で行われる投票の過半数である三票は確保可能となる。

 つまり、王賀オーガが狼だとしても警護セキュリティを騙る必要性は薄く感じる。


 騙りが計画的なものなのか、場当たり的な犯行なのか、思考の過程、王賀オーガ蝶野チョーノの発言、前日までの行動、それらを考えながら僕は議論ホールヘ戻った。


「意外だな」

王賀オーガ、どういう意味だ?」


 ホールに一人腰掛けていた王賀オーガが、驚いた表情を浮かべている。


「貴様や御劔ミツルギは……ギリギリまで一人で考えて抜き、最後に戻ってくるかと思っていた。 それとも、貴様は考える必要のない狼か?」

「ほざけ。僕が狼だったとしても時間いっぱい私室から個人識別板パーソナル・カードを使って仲間と密談する可能性はあるだろう」


「食えぬ男だ。ならば、この場で誰とも会話していなかった吾輩わがはい警護セキュリティであると信じてくれるか?」

「それとこれとは、話が別だ」


 腕を組み続ける王賀オーガは、誰かと何かをやり取りしている様子もない。


 蝶野チョーノ早乙女サオトメ管木スガキ御劔ミツルギが順に入室し、議論が再開される。

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