2-(7/7)仮想通貨のマイニング


 管木スガキ白戸シロトは単独行動、王賀オーガ蝶野チョーノは初日から変わらず二人で動き、御劔ミツルギはパンダとなり孤立した半田ハンダに聞き込みを行おうとしたらしい。


「僕はさっきまで、管木スガキと話していた」

「私、議論ホールで太ったハッカーの人と喋ってました!」

早乙女サオトメが話したのは白戸シロトだろうな。私は半田ハンダの部屋に行ってみたが、出てこなかった」


 初日に意見交換をしたからか、早乙女サオトメ御劔ミツルギが僕の部屋を訪ねてくる。


「出てこなかったのか」

半田ハンダさんが人間か狼か、分からなさそうです?」

「ああ。彼は王賀オーガに突き放されたことから人間不信に陥っている」


 それが半田の本心か演技かまでは分からないが、と御劔ミツルギは付け加えた。


早乙女サオトメは、白戸シロトから何か情報を引き出せたか?」

「直接的なものはあんまり。でも、主催の前身? の話は聞けました」

「ほう。衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフより前から活動していたということか?」


 中央銀行が存在しない仮想通貨の市場では第三者による取引の確認と承認作業、つまりマイニングが必須になる。

 そして仮想通貨の運用において、ブロックチェーンと呼ばれる巨大な取引台帳の改竄は不可能である。

 システムが台頭した二〇一〇年代から二百年経った二十三世紀、電脳やサイバー犯罪が先鋭化しても市場や取引の厳格性は損なわれなかった。

 故に、取引を保証し市場の信頼性を担保するマイニングという業務は常に需要があったらしい。


 衛星保全条約が締結された頃の話である、とのことだった。


「で、そのマイニングとやらには高性能なマシンスペックが要求される、と」

「はい、ハッシュ関数やナンス値って言葉は私もよく分かりませんけど」

「衛星を掌握する力がある〝主催〟なら、独壇場だろうな」


 聞くところによると、二十一世紀の頃から取引承認計算の原則も報酬体系も変わらないらしい。

 最も速く計算を終わらせたマイニング完了者に、相応の対価が支払われる。


「マイニングのためだけに機器や人材を揃えた企業もあったのか」

「東亜国の、旧中華人民共和国でしたっけ……土地を買い占めたりしたみたいです」

「電気代が安かったそうだ。二十二世紀から暗号資産の市場がさらに活発になった話は、私も聞き及んでいる」


 マイニング処理で不正や齟齬があれば、他の計算者が即座に看破する。

 どこまでも公正で冷徹な、情報処理だけの世界。

 各国の企業が高性能機や運用コスト削減で凌ぎを削りながら報酬の獲得を目指す市場を〝主催〟は瞬く間に独占した。


「その頃の〝主催〟は法を犯さず、真っ当に稼いでたんだな。何でこんな企画を始めたんだか」

「やっぱり、衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフのシステムの方が儲かるんですかね」

「それはそうだ。市場規模も参加者も、桁違いだろう」


 差し当たりの、衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフに関する有益な情報は得られないまま、僕ら三人は解散した。


 

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