2-(6/7)特攻か、囲いか


 共用部の二酸化炭素が排出され、自由行動が可能となる。

 議論ホールへ向かうか、御劔ミツルギ早乙女サオトメの部屋に行ってみるか僕は悩んだ。


「なあに? ざぁこにあんま時間使いたくないんですけどぉ?」


 食堂で一人佇む管木に声をかける。

 鴨山カモヤマ処刑の流れを作る発端となった彼女は、半田ハンダを人間として見ていたのだろうか?


「ギャルの目線だとパンダだけが人間でしょ? まあ、ギャルもパンダも狼でかこい狙った線もあるけどね」

「囲いがあったとしても、関西カンサイが襲撃を受けてからパンダと軽曽根カルソネを処刑すればいい……ということか?」


 囲い行為。

 役をかた調査サーチを名乗る狼が、仲間の狼に白判定を出す戦略を指す。

 二名いる調査の一方から白判定を受けた者は一時的に処刑対象の候補から外れる、それを狙った行動である。


「そういうこと。お兄ちゃん、ざこかと思ったけどやるじゃん。どう思う? 関西カンサイ特攻とっこうしたか、ギャルが囲ったか」

「現状、何とも言えないな」


 黒打ち特攻。

 調査サーチを騙る狼が、人間とわかっている参加者をおとしいれる目的で黒判定を打つ行為である。


 ①関西カンサイが〝狼〟で、人間である半田ハンダに黒特攻、つまり偽りのクロ通知を出した。

 ②軽曽根カルソネが〝狼〟で、仲間である半田に白囲い、つまり処刑回避の助け船となるシロ通知を出した。


 このどちらが正着であるか、それが争点となる。


「今夜の襲撃がどっちかの調査サーチで、また護衛成功が出たら楽勝なんだけどねー」

「そう都合良くは、いかないだろう」


 狼は狼を襲撃することが出来ない。

 例えば関西カンサイが襲撃され、警備セキュリティも護衛対象として関西カンサイを選択したパターン。

 あるいは、その逆に軽曽根カルソネが襲撃され、警備セキュリティが彼女を守るパターン。

 どちらの場合も生き延びた調査サーチの〝真〟が確定し、芋蔓式いもづるしきにパンダの正体も明らかになる。

 オセロ盤の色が一気にひっくり返るように、状況が更新されるのである。

 管木スガキはそれを願っているようだが、調査サーチの一人が襲撃され「死んだ方が真」となる可能性も高い。


深川フカガワお兄ちゃん汗やばくない? 大丈夫?」

「お前はよく落ち着いていられるな、僕らはもう人殺しなんだぞ?」


 初日はほぼ全員の合意で、なし崩し的に行われた処刑。

 しかし今日は鴨山カモヤマが事切れるまでの一部始終を見た、それに初日の中年も怨嗟の言葉があったのかもしれない。

 人の命を奪ったという事象が現実味をおびて、胃の腑がズシリと重くなる。


「罪悪感? あるわけないじゃん、そういう企画なんだから。それに鴨山カモヤマのざぁこが狼の可能性だって全然ありえるけどぉ?」

「その場合……鴨山カモヤマは処刑を逃れるために警備セキュリティを騙ったと、僕は思う」


 片方の調査サーチから白判定を受ける。

 あるいは、自分は警備セキュリティであると名乗りを上げる。

 こうすることで、その人間は処刑対象から一旦は外れる。

 

 それをせず自棄やけになった鴨山カモヤマはおそらく、人間だ。

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