2-(5/7)二日目に処刑された政治家


 建設的な会話が出来ない野蛮な猿供には絶望した、それが政治家である鴨山カモヤマの吐き捨てた言葉。


「まだ投票は済んでないから議論は続けられるでやんすけど?」


 解析アナライズが相変わらず参加者全員の様子をうかがったが、早々に解散となった。


 衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフには、全員が私室に戻ってから処刑が行われるルールも存在する。

 処刑される本人が移動を拒む場合は初日と同じく電流による措置を受け、個人識別板パーソナル・カードを投げ捨てた際には議論ホールの四隅に設置された機関銃で射殺されるらしい。

 高さ四メートル、内側に向かって傾く壁を登り機関銃に干渉出来る人間は存在しない。

 逃げも隠れも、個人識別板パーソナル・カードを手放すこともなく自らの足で歩く者には最期の一時間が与えられる。


「これ以上の議論は不要だ、君達全員が地獄に落ちることを願っているよ」


 恨み言を遺した鴨山カモヤマは、毅然とした態度で私室へ向かっていった。

 進行方向をれ第三者の私室前で待機したり侵入を試みてもまた、機銃により殺害される。

 ブレることなく廊下の中央を歩き自分の部屋を目指す鴨山カモヤマの様子は、さながら死地へ赴くランウェイのようだった。


『見ているか? 併合東亜国の国民、私の支持者達! 私は間違っていない、何も間違わず矜恃を捨てずに生きた!』


 鴨山カモヤマの様子は各々の私室に戻った僕ら参加者一人一人の個人識別板パーソナル・カードに割り込まれ、強制的に配信される。

 画面を消すことも音量を下げることもかなわず、個人識別板パーソナル・カードを放り投げても室内に鴨山カモヤマの声が響く。


『私は国を救いたかった、併合東亜国に衛星を落としたくなかった。だが、こんな企画に参加するんじゃなかった!』


 参加者全員、そして地球にも中継される鴨山カモヤマの叫び。

 共用部には夜時間と同様に二酸化炭素が満ち、誰も部屋から出ることはできない。

 カメラに向かって両腕を広げ演説を続ける鴨山カモヤマだが、三十分、四十分と時間が経つにつれ余裕がなくなってきた。


『嫌だ、死にたくない……なあ、金ならある、主催が併合東亜国や世界の政治に関心があるなら相応のポストをくれてやる、システムを解除してくれ!』


 潔く死を覚悟したはずの男は、時間が迫る中で命乞いを始める。

 この映像は地球上の一部を熱狂させ、参加者達の罪悪感や恐怖心を煽っていった。


『頼む、何でもする! まだ間にあう、止めてくれ、助けてくれ! 地球に戻れば、私なら何でも好きにさせてやる!』


 もう、間に合わない。

 仮に奇跡が起き生き長らえたとしても、彼の政治家生命は終わりである。


 ほどなくして、鴨山カモヤマの私室に二酸化炭素が充填。

 彼は苦しむ暇もなく静かに息を引き取った。

 

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