2-(2/7)八人の灰


 時刻は二十三時を回っている。

 明朝、八時を過ぎるまでは部屋から出られない。

 雑な字で殴り書きされたメモを眺めながら、議論ホールで交わした白戸シロトとの会話を思い出す。


『まずこれ、五十音順でござるな……これを見るでござる。関西カンサイの本名は梅田ウメダで、彼の職は』

『なあ白戸シロト、いくらお前が情報データをまとめても個人識別板パーソナル・カードは本人以外……られないだろ』


 そうでござった、と慌てて紙を取り出す白戸。

 役職通知も役職行動の結果も、狼の場合は狼同士の会話ログも、個人識別板パーソナル・カードの情報は所有者以外が視認することは不可能である。


 ①ウメダ、新聞記者、男性、調査サーチの役職を名乗る。

 ②オーガ、会社役員、男性

 ③カモヤマ、政治家、男性

 ④カルソネ、配信者、女性、調査サーチの役職を名乗る。

 ⑤サオトメ、接客業、女性

 ⑥シロト、フリーランスの電脳屋、男性

 ⑦スガキ、芸能関係者、女性

 ⑧タカハシ、会社員、男性、解析アナライズの役職を名乗る。

 ⑨チョーノ、接客業、女性

 ⑩ハンダ、会社員、男性

 ⑪フカガワ、探偵、男性

 ⑫ミツルギ、公安関係者、男性


 人間か狼か不明、つまり〝グレー〟の参加者は僕を除いた八名。

 解析アナライズ高橋タカハシは確定で人間陣営。

 調査サーチの二人、軽曽根カルソネ関西カンサイのうち片方は確定で狼。


グレーという表現、拙者はじめて聞いたでござる』

『旧時代の人狼ゲームの言い方だ、スラムの仲間と練習してきた』


 あの頃から得意ではないし嫌いだったが、今はもっと気分が乗らない。

 立場の弱い者をよってたかって追い込む衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフは、人狼ゲームの暗部が凝縮されたような内容である。


『ひとまず序盤は、拙者達が夜に怯えることはなさそうですな』

『そうだな、最初に襲撃を受けるのも護衛されるのも……おそらくは役職だろう』


 解析アナライズ調査サーチという二名の役職。

 これは人間陣営の切り札であり、狼陣営の天敵。

 そこを差し置いて〝灰〟の参加者を襲撃すれば、単純な確率論だけでも投票処刑や調査によって狼を引き当てられる可能性が跳ね上がる。

 人間側の〝役〟を殺さず〝灰〟から削るようなやからは、よほどのバカか相当な実力者である。


 白戸シロトとの会話を振り返りメモをまとめ終わってから、僕はカビ臭いベッドに潜り込む。


 翌朝。


 個人識別版パーソナル・カードには〝襲撃阻止〟の四文字が表示されていた。

 

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