1-(5/7)遺棄された衛星
赤錆まじりの臭い水とボソボソのレーションを食べながら、食堂でとりとめのない雑談をする。
「もとはそんな用途だったのか、この衛星」
「地球も棄てられたリゾート、ありますよねー」
二十二世紀の初頭、世界各国で盛んに宇宙開発が進む。
宇宙居住区への生存圏拡大、その
しかし紛争や天災に世界的な不況の煽りを受け、各国で協力し進められていた宇宙開発は頓挫。
およそ百年近くの間はハード面としての物理的な警戒態勢も、ソフト面にあたる衛星プログラムの保守管理も続けられる。
そんな衛星の保護は、やがて必要性が疑問視され費用や政治的な問題から対応が終了した。
「私、思ったんですけど……衛星の解体とか、すればよかったんじゃないです?」
「それは、僕も思った。乗っ取られてこんなことに使われるくらいならな」
「
コンコルド効果。
投資や金銭の消費を続けたところで〝負け〟を取り戻せないような壊滅的な状況に直面しても、それまで投資した分を惜しみ行動を継続してしまう心理傾向。
賭け事で〝最後に勝てばいい〟などが典型であり、サンクコストバイアスとも呼ばれる認知の歪みの一種らしい。
「なるほど、な」
「あー、もったいなかったんですね。衛星棄てるの」
「そういうことだ。それに、解体にもまた金がかかる」
荒廃を重ね疲弊した地球。
宇宙開発どころか、地上の事柄で手一杯。
それでも〝いつか〟また衛星を活用する時代が再来すれば、残しておけば他国より優位な立場をとれる。
破棄すると開発費が無駄になるが〝いつか〟宇宙開発に一枚噛めば、企業にも国家にも莫大な利潤を生む。
「その、セコい考えで
「詳しいんだな、
「でも〝主催〟は条約お構いなしなんですよね?」
動かさない、壊さない、他国の衛星に関わらない、そんな停滞しきった現状維持の条約が締結。
当初は条約違反や衛星の軍事利用、構造物落下兵器としての転用が懸念されたが、そんな話題は一部の陰謀論者によるものと一笑に伏される。
だが、薄氷のような衛星平和は百年も保たず、瓦解した。
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