1-(4/7)処刑者の凍結


 個別認識板パーソナル・カードを用いた投票がしめやかに行われ、電流によって身動きが取れなくなった中年の男は私室に運び込まれた。

 程なくして部屋には二酸化炭素が満ち、死亡が確定すれば室温はマイナス三十度に固定される。


「一旦、自由行動にするでやんす。こんなに早く処刑が決まるの珍しいから、オイラ今後のことをゆっくり考えたいでやんす」


 解析の男が号令をかけたが、長髪にサングラスの男……御劔ミツルギが助言する。


解析アナライズ君、気持ちは分かるが思考開示は渋らない方が良い。君の場合は初日から犠牲者になる可能性も高いからな」


 調査サーチ解析アナライズは〝狼〟の襲撃を受け犠牲者になりやすいので、御劔ミツルギの言わんとすることは僕も理解できた。

 全員が〝避難〟する夜時間の前に、三人の〝狼〟は端末による通信で相談し襲撃対象を選択する。

 結果、生贄とされた者の〝私室〟には夜時間の間も共用部と同様に二酸化炭素が満ち、死亡。


警備セキュリティがオイラを守ってくれれば、明日も生きれるでやんすけどね」


 解析アナライズの男が口にした第三の役職。

 警備と書きセキュリティと読む肩書きを与えられた参加者は、自分以外の私室を一つ選び二酸化炭素充填のシステムを取り消すことが可能である。

 旧時代の人狼ゲームでは狼の襲撃から市民や役職を守る存在として、騎士や狩人という名称で親しまれていたらしい。


「そこの君、食事をとりながら話でもどうだ?」


 決意の固い解析アナライズを尻目に、御劔ミツルギが僕に声をかけてきた。


 解析アナライズと二名の調査サーチは、早くも私室に向かって歩き出している。

 関西カンサイ軽曽根カルソネのどちらが本物、つまり〝人間側〟か分からないが、とにもかくにも役職は夜間に殺害される可能性が高い傾向を鑑みれば、その心情は察するにあまりある。


 娯楽の場では引けば嬉しい気持ちになることもある村役職も、ここでは割り当てられれば死のリスクが高い罰ゲームでしかない。

 楽しい催しなら突然死が発生すれば試合中止ノーゲームになることも多いが、ここでは何事もなく続行される。


 何故なら、ここは衛星墜落論戦サテライト・ワーウルフの会場だからである。


「あの、私もいいですか?」


 定位置が決まらず傍観や議論を続ける僕を含めた参加者の中、最初から隣に立っていた黒髪の女性もまた僕と御劔に近寄ってきた。

 

「構わないが、二人とも僕に話しかけた理由を言え」

「深川、君も衛星墜落を防ぎに来たんだろう? 開始前の会話を聞かせてもらった。それが理由だ」

「私、早乙女サオトメって言います。あっちのグループ、雰囲気がちょっと苦手で……」


 無理に拒む理由もなくなったので、食堂に移動する。

 

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