SCP-4711 はどんな存在なのか

昼行灯

インコンビニエンス・ストア

 マレーシアの、とある場所にコンビニがある。7の数字がつくコンビニエンスストアだ。日本でも全国展開している。お世話になっている人は多いのではないだろうか。


 コンビニの外見は至って普通だ。看板も外見も7の数字をメインに置いている。あなたの街のホットステーション的なフランチャイズ店だ。


 この7の数字がつくコンビニは7時から11時までの営業時間をそのまま起用している。もやは看板に偽りありのような営業時間が主流のコンビニだ。

 だが、そのおかげで夜中でも明け方でも恩恵にあずかれるのだから文句を言う人はいないだろう。


 むしろ7時から11時までの営業時間にするとクレームが入るのが現代の闇である。 ちなみに、私はこのコンビニブランドの冷凍餃子が好きだ。チルドではなく冷凍一択だ。

 さて、24時間人間の欲望を満たしてくれるコンビニだが、マレーシアにあるこのコンビニは他の店舗とは一味違う。


 一番欲しいもの「だけ」手に入らないのだ。なんてこったい。


 例えば、ポテチのうすしお味が食べたくて来店するとしよう。棚の前まで行くと、ポテチが売っている。コンソメ味、のり塩味とポピュラーな味が並んでいる。一般的にうすしお味もその仲間になるだろう。一時的に売り切れていることはあっても店頭から消えることはない。


 しかし、このコンビニでは絶対に手に入らないのだ。


 しかも、うすしお味がないことに何の疑問も抱かない。「品揃え悪いな」と不満を持つだけで終わってしまう。

 この現象は、お菓子だけではなくあらゆる商品で起こる。

 おにぎりの梅味が欲しいと思えば、梅味だけがない。燃えるゴミ用の袋を買おうとすれば、燃えるゴミの袋だけがない。資源ゴミの袋はあるのに。


 じゃあ、コンビニブランドのコーヒーなら大丈夫だろう、と思いきやそこも抜かりはない。機械が不具合を起こしてフレーバーやシロップのみが出てくるようになってしまう。肝心のコーヒーだけ抽出されない徹底っぷりである。


 朝に来店しても、夜に来店しても、日を跨いで来店しても絶対に欲しいもの「だけ」手に入らない、なんならマジックを披露するかのように目の前で自然消滅すらさせてまで買わせようとしない、逆の意味で完璧な店舗なのである。


 一体、どこに消えてしまうのだろう。それはわからない。


 商品に追跡装置を取り付けても、自然消滅の際に追跡装置だけ残される。防犯カメラで見張っていても、跡形もなく消えてしまう。

 このコンビニの経営者は、ないないの神様だとしか思えないぐらいに手に入らないのだ。まるで人のささやかな願いを嘲笑うかのようなコンビニだが、本当に恐ろしいところはそこではない。


 トイレだ。


 コンビニでトイレを借りたことがある人は多いのではないだろうか。

 突然の腹痛や思いがけない渋滞に捕まった時のコンビニのトイレたるや。最早、神様に等しい存在だろう。

 このコンビニにもトイレはある。借りたい時は自由に利用できる。日本と同じシステムだ。

 しかしトイレを借りようとすると、入口の鍵もしくは設備に100%の確率で故障が発生する。そして当然のごとく第三医薬品の胃腸薬も手に入らない。


 つまり、トイレが使えないのに社会的尊厳が下水まで流されてしまうかもしれないのだ。


 こうなると、もうないないの神様の悪戯では済まされない。人としての尊厳がかかっている。悠長なことは言ってられない。

 財団はこのコンビニを買い取り、収容した。

 収容したと言っても、コンビニは現在も通常営業をしている。財団はあくまで収容・保護・管理が目的の組織だ。異常な存在だからといって、無闇に壊すようなことはしない。


 SCP-4711のナンバリングをして、財団職員に経営を任せた。

 しかし、そのまま営業すれば普通に客が来店してしまう。そこで乱雑で貧相なディスプレイを施し、自主的に敬遠したくなる店舗に仕立てた。

 それでもたまに物好きな客が来店する。その時は普通のコンビニを装って何も言わずに対応する。時には記憶をないないして、お帰り願う。


 財団自身がないないの神様となって、人類の尊厳を守るようにしたのである。


 ないないの神様が収容・保護・管理に成功したのだから、SCP-4711に与えられたクラスはSafe。今でも本当に欲しいもの「だけ」が無いまま、マレーシアで営業している。これを読んだ読者は、マレーシアで良かったと思う人もいるだろう。


 だが、ちょっと考えてみてほしい。


 コンビニで欲しいもの「だけ」売っていなかった経験をしたことはないだろうか。

 SCP-4711の発生条件は解明していない。

 もしかすると、いつものコンビニがいつの間にかSCP-4711になっている可能性だってあるのだ。

 発生条件が解明していないのだから、もちろん止める手立てもない。


 トイレを済ませてからコンビニに行くことだけが、尊厳を守る唯一の手段なのである。

 

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