第29話「未熟サキュバス、恋します!」












※一部ふたなり展開があります。苦手な方はご注意ください※






















 人間界に来てから、早くも三年が経ちました。


 巡る季節の変化も当たり前のように感じてきて、バイトと家事の両立もうまい具合にこなせるようになって、すっかり日本での生活にも慣れてきた今日この頃。


 ポンコツなわたしのことを「至上最悪のダメ娘」と生まれてすぐの魔力量の少なさを見て呆れて育児放棄した、今は疎遠なお父さん、お母さん……サキュバス界から、見てますか?元気にしてますか?


 そんなサキュバスとしては失格もいいとこなわたしは先日、人生で2回目のお引っ越しを済ませたところです。


 前の家だと家族三人と一匹じゃ狭すぎるから、少し田舎寄りな都会の古民家をリフォームして、住むことになりました。


 だから今は、縁側でみんなとお茶を飲みながらのほほんと、きっとこんなわたしには興味もなくて見向きもしてないだろう両親がいるはずの空を見上げています。


 サキュバス界は、空の上にあるもんね。


「縁側でのんびり…いい休日だね」

「そうだねぇ…平和だね~」

「今日も天海の淹れてくれたお茶がうまい」

「ニャア~…」


 わたしの膝にはあんこが、深澪の膝には狐姿のさとりがそれぞれ丸まって、お互い膝の上の体を撫でながら熱いお茶を喉に通した。


 通常、サキュバスがこんな風に穏やかな人生を送るなんてことはありえない。


 家庭を持って、地に足つけて、ひとつの場所に留まって……そんなこと基本的になくて、仮にパートナーが見つかったサキュバスでも生涯をかけて人間の精力を搾り取り続ける。そして、精魂尽きて相手が死んだらまた次へ…な人生。


 性と欲に乱れた、爛れた生活を死ぬまで。


 …残念ながらわたしには、それが合わなかったみたい。


 サキュバスなのにどこまでもサキュバスらしくないポンコツなわたしは、もう経験済で処女ではないというのにサキュバスとしては未熟なまま。


 それでもいいやと、開き直っている。


 だって。


「今日は天ぷらうどんだよ~!」

「へぇ…君が米じゃなくてうどんなんて珍しいね、市販のやつ?」

「ううん、自分で打ちました!手作りだよ」

「………どんどん本格的になってないか?凄いな」


 毎日こうして楽しくお料理ができて、それをみんなで食卓を囲って会話を弾ませながら食べることができて、


「あんこ、お散歩だよ!行こ~」

「気を付けてな」

「…何かあれば飛んで行くからね」

「うん!ふたりとも、ありがとう!」


 大好きな猫さん…あんこを腕に抱いて、アスファルトの地面や青く澄んだ空、木の葉を揺らす風…田舎と都会の狭間な静けさと喧騒、すれ違う通りすがりの人間の姿形を思う存分に五感全てで感じながら外の世界を練り歩いて、


「はい、もう一回」

「んぐぅうー……っはあ!もうだめ…」

「お疲れさま、頑張ったね。…だいぶ筋肉ついてきたんじゃないか?」

「そうかな、へへ…」


 運動がてらほぼ毎日やってる筋トレのおかげで身も心もしっかり引き締めて、


「…筋トレ終わりのお前、いつもえろい」

「きゃ…っ、や、やだ深澪……今すごい汗かいちゃったから、せめてお風呂…」

「何言ってんだよ、汗流すなんてもったいないことさせるわけないじゃん。…全部おいしく、いただきます」

「や、んっ……も、もう!サキュバスみたいなことばっか言って…」

「サキュバスは天海、お前だろ?」

「そ…そうでした」

「ほら……サキュバスっぽく、えっちなお願いしてごらん…?」

「ぁ…う、せ…精力、ください」

「もっとえっちに」

「わ、わたしの、なかに……精力いっぱい出してください…っ」


 夜はこんな風に促されて、ちゃんとサキュバスらしい事もさせてもらえて、深澪に心も体も余すことなく堪能されて、深澪の精力も愛も堪能できて。


 こんな健康的な生活を続けてるから、他のサキュバスと違って脳が焼き切れる心配も何もなくて……無事に人間と変わらず長生き出来そうです。


 正直…幸せすぎて自分がサキュバスであることすら忘れる日常のおかげで、前ほどサキュバスとしてはポンコツでも落ち込まなくなってきた。


 それに…なんだかんだ、頻度はそこまで多くないとはいえセックスして深澪のことを喜ばせられてるし、人間界での生活もだいぶ慣れてきていて、そこまで未熟なわけでもなくなってきてるもんね。


 それでもまだまだ全然で、引っ越してから始めた和菓子屋さんのバイトでは失敗することも多くて、怒られることもたくさんある。


 だから少しでも上達するため家でも和菓子を作って、大好物だというさとりにそれを試食してもらったりもしてる。


 ちなみにさとりは、今はもう働かないで深澪のお仕事のサポートをしてくれてる。長寿なおかげで色んな経験が豊富だから、話を聞いてるだけでも参考になるんだとか。深澪とは気が合うみたいで、とても仲良し。


 …あと、これまで長く働いていた、まったく手を付けてなかったコンビニのバイト代の貯金全てを預けてくれて、家事のサポートまでしてくれてる。


 なにより、最強のさとりが番人を務めてくれてる我が家の防犯対策はバッチリで、まさに安心安全。


 そんな心強くて頼もしいさとりが、


「うーん…何度食べても、くららちゃんの作る和菓子はおいしいね」

「へへ、見た目はちょっと崩れちゃったけど…」

「それ含めて上出来だよ。君はほんと努力家で素晴らしいね」

「ん、ふふ…ありがと!」


 毎回いっぱい褒めてくれるおかげで、最近はちょっとずつだけど自信もついてきた。


 単純なわたしを見て、さとりは本当に嬉しそうに微笑んでくれる。…この笑顔を見れる瞬間もまた、幸せ。


「…私も幸せだよ」

「ほんと?よかった!」


 まだ、たまに心を読まれて会話することは慣れなかったりもするけど……でも、これも少しずつ慣れていかないとね。


 それともうひとつ、慣れたいことがある。


「ね、ねえ…さとり」

「うん、何かな?」

「お……おち…おちん○ん…見せて」

「あぁうん、いいよ」


 さっそく慣れるためにお願いしてみたら、さとりは快く頷いて履いていたズボンのチャックを下ろした。


「…勃たせた方がいい?」

「お、お願いします」

「ちょっと待ってね」

「ひっ…」


 ポロン、と現れて目の前で擦られるたび膨れ上がっていくそれを、引きつらせた顔を手で覆いながら…指の隙間からちゃっかりガン見する。


 て、定期的に見せてもらってるけど……や、やっぱりこればっかりは怖くて仕方ない。


 でも、だけど…仮にもわたしだってサキュバス。


 それにさとりのなら…まだ他の人よりは怖くないから。


「さ…触ってみても、いい?」

「もちろん、少しなら」


 勇気を出して、おそるおそる手を伸ばした。


「わお…すごい」


 指でつんつんしてみて、何がとは言わないけどとてつもなくすごく凄いその感触に感激する。


 なるほど…こうなってるんだ。


「あー、くららちゃん…」


 気が付けば握り持っていたわたしの手に汗ばんだ手を重ねて、さとりにしては珍しく余裕のない声で止められた。


「これ以上は…ちょっと」

「だめ?」

「いや、私は別に構わないんだけど…」


 そう言いながら自分の背後を肩越しに指差した動きにつられて、顔を上げる。


「あ…」


 さとりの背後に立つ人物を見て、一気に全身の血の気が引いていった。


「彼女、今すごい怒ってるから。やめた方がいいよ」

「いつもいつも、言うのが遅いよ…!」

「言われなくてもやめろ、アホ!」

「あうち…っ」


 ゴチン、と頭に怒りの鉄拳を食らって、咄嗟に棒から手を離して自分の頭頂部を押さえた。…たんこぶできたかも。


「ったく…おちん○ん観察はしてもいいけど触るのはだめって言ったろ!約束は守れよ!」

「ご、ごめんなさい~…」

「お前も触らせるな、ばかやろう!」

「あだっ……わ、悪かったよ、すまない…」

「次やったらお○んちん全面禁止にするからな!」

「すみません!それだけは勘弁してください…後生ですから!」


 怒り心頭の深澪にはとりあえず土下座で謝り倒してなんとか許してもらえた。


 そんなこんなで、たまに忘れつつあるサキュバスとしての成長も、思い出したらちゃんとチャレンジするようにして…でも一生、おちん○んをお股に入れることはないんだろうなぁなんて思ってたんだけど。


「そういえば今さらだけど…私の能力使えば深澪くんにも生やせるよ?」

「え!」

「は!?」


 まさかの、ふたなり爆誕できちゃうらしい。


「試しに生やしてみる?」

「っぜ、絶対に嫌だ!生やすか、そんなもん!」

「生やしてくださいお願いします!」

「ふざけんな!あたしはよく男に間違えられるけど、男みたいな見た目してるけど!こう見えてちゃんと女のプライドは持って…」

「小説の執筆に役立つんじゃない?男役の気持ちも知れるよ」

「うん、生やしてみるのもアリか。お願いします」

「ふはっ…女のプライドはどこへやら」

「うるせえ!こちとらこの先の人生、お前らを養うために稼がなきゃならないんだよ!金のためならプライドなんて捨ててやる…!小説家ナメんな!」

「大黒柱ってやつだ…!よっ、旦那様!」

「…とりあえずち○こ生えたら真っ先にぶち犯してやるから覚えとけよ、天海」

「すみませんでした!やっぱり生やさないでください、さとりさん!」

「それは無理なお願いだね」

「そんなぁ……後生、後生ですからぁ…!」


 結局、深澪がお○んちんを生やすのは一日だけということに決まった。


 だからその日の夜、わたしはようやく本当の意味での処女を捨てることになるんだけど……それはまた、別のお話。


 あまりにえっちすぎたから割愛するとして。


 色々あって、現在。


「射精もなかなか…気持ちよかったな」

「ほんと?」

「うん。でも、もういいや」

「…どうして?」

「あたしは女として、女であるお前が好きなんだ…ってことに気付いたから」


 今は絶賛、ピロートーク中です。


 嬉しいようなことを言ってもらえて、微笑みながら何も衣服をまとってない胸元の肌へと頬をくっつけた。


 あ……心臓の音、する。


 トクントクンと鼓動を鳴らしているのに気が付いて、耳を押し当てて瞼を閉じた。


 あったかい。それに…落ち着く。


 吸い付くような柔らかな肌は、本来男としかセックスしないサキュバスなら味わう機会のない女の体そのもので……だけどわたしは、これが良い。


 この人が良い。


 触れられるのも、触れるのも。


 セックスするのも、何をするのも全部。


 この人だから、捧げたい。


「深澪…」

「ん?」

「だいすき」


 人間と裸で抱き合って寝ているというのに、性欲よりも恋心を疼かせるわたしはやっぱり、サキュバスとしては未熟もいいこと。


 でも、それでいいの。


 わたしはとことん、どこまで行っても未熟者…サキュバスだから、未熟サキュバスかな。


 そんな、未熟サキュバスなわたしは今日も、


「天海…大好きだよ」


 深澪…あなたに、恋してます。


「わたしは…愛してる!」


 いやもう、それ通り越して…愛かも?












 次回、最終回






 


























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