第19話「未熟サキュバス、バイト探します」




























 バイト探しをはじめて数日。


「…そういえば、サキュバスって履歴書の職歴とかはどうしてんの?」

「職歴はないから書けないけど…学歴はサキュバス協会が運営してる日本支部の学校名を書いてるよ。一応ちゃんと学校自体も存在してるし希望すれば通える。……教育の質が悪いから行っても意味ないけど。あとは役所みたいな役割も担ってるから、用があればたまに行ったりするよ」

「へぇ~……なんか意外とちゃんとしてんだね。凄いな、サキュバス協会」

「他にも、人間界に来た時にサキュバス達が困らないように主にお金とか…最低限のフォローはしてくれるの。だけど基本は自立を重んじてるから頼り過ぎはNGなの。人外の存在を認知してる一部の人間と協定を結んでるから、そのおかげもあってこっちでもサポート受けられるんだ~」

「まだまだ知らない世界がたくさんあるんだな…」


 感心して話を聞いてくれる深澪に得意げな笑顔を見せつけつつ…バイト探しの相談もしていく。


 わたしはけっこう、働ければどこでもいいやと思ってるんだけど……深澪のNG項目があまりにも多いからなかなか条件に合った良いバイトは見つからない。


 ちなみに心配性な彼女の絶対条件は、


「すぐ迎えに行ける距離」

「うん」

「週に多くても2日勤務まで」

「うん…」

「勤務時間は4時間まで」

「う…ん」

「女が多い職場…いや、男がいないところ」

「そんなところ、あるかなぁ…」


 働く時間が長くなるとその分ソワソワして仕事が手につかなくなるらしくて、かなり範囲の狭い条件を提示されてて、始まる前から終わってる気もする。


 それでもスマホをお借りして、空き時間を見つけては探しに探しまくって、ようやく希望の光を見つけた。


 駅の近くだからちょっと歩くけど…週一日からでもOKで、時間も3時間〜、働いてる人がほとんど全員…女の人!時給も他と比べて高いみたいだから、もうここしかない。


 そうと決まればさっそく準備してお出かけして…帰ったら深澪に報告しよ…!


 と思ってたけど、帰ってからも深澪はまだ寝てたから報告は翌日の朝することにした。


「あのね、深澪!ガールズバーっていうところがあったよ!」

「絶対だめ」

「どうして?女の人しか働いてないんだって。だからいいでしょ?」

「客は全員、男だから。だめ」

「じゃあキャバクラ…」

「ありえません!だめです」

「んー…スナックは!?」

「なんでそんなのばっか見つけてくるの…」


 ここなら文句ないだろうと思って言ったのに、深澪は喜ぶどころか頭を抱えだした。…なんで?


「もっと他にない?スーパーのレジとか」

「男の人いるもん」

「っ…こ、工場とか」

「勤務日数が最低3日〜がほとんどだからむりだよ、あと男の人がいるもん」

「………カフェとか本屋とかファミレスとか」

「どこも男の人がいるからむりだよ?」

「く…っ!じゃあもう男の人がいてもいいから!とにかくガールズバーとかはだめ!」

「えー……せっかく面接も受かったのに…」

「は!?」

「明日から来てって…言われてるの。だめ?」

「だめです!今すぐ断ってきなさい!」

「いやだ!明日は体験入店するの!体入してくるの!」

「そんなことばっかり覚えなくていいから!」


 この後もなんやかんや言い合って、お得意の土下座と泣き縋りでゴリ押ししてみたら……最終的に、明日の一日だけは様子見と社会勉強ってことで許してもらえた。バイトを継続していいかどうかは、経験してみてから決めることにした。


 代わりに行き帰りは絶対に深澪付きで、3時間経ったら何があってもすぐ帰宅、当たり前にお酒は飲まないっていう約束を交わした。


「っていうか、いつの間にひとりで面接行ったの」

「深澪が昼から夜まで寝てる間に」

「………もう寝るのやめようかな」

「だめだよー…ちゃんと寝よ、一緒に。睡眠は大事なんだよ?」

「うん、寝る。今すぐ行こ」

「まだ朝…」

「いいから」


 いつもより強引な深澪と仲良く手を繋いで寝室に行って、今日はわたしのわがままばかり聞いてもらったから少しでも気分良く過ごしてもらおうと布団に潜ってすぐ抱きつく。


「深澪…だいすき」


 甘えた声を出して、勇気も出して頬に向かってキスしたら、鼻の奥まで欲情の香りが届いた。


「…はぁ、ほんと大丈夫かな。こんなかわいくて」


 ため息を吐き出してわたしのことを抱きしめた深澪は、顔をスリスリ寄せて何度も落ち着きなく頭を撫でていた。


「やっぱり心配だから……せめて、キスマつけていい?」

「き、キスマ…」


 体に跡を残すやつだ。サキュバス界にいた時も漫画でも何回も見たことあるから知ってる。


「う…うん。つけて、いいよ」


 ドキドキしながら頷くと、さっそくと言わんばかりに深澪はわたしの体の上へと覆い被さった。


 窺う仕草で服の中に手が入って、滑らかな動きで簡単に服を脱がされる。


 上半身だけ下着姿になったわたしを見て、ふたりの間に漂っていた香りは濃く、漏れ出る吐息は熱を増していた。


「改めて見ると……綺麗だね、肌」

「んっ……う、うん…これでも一応、サキュバス…だから。あとケアもしてる…」

「柔らか…小さいけど、ちゃんとおっぱいしてる」

「小さいって言わないで…気にしてるんだから」

「あぁ、ごめん。…かわいいよ」


 しばらく揉むとも言えないほどの力で胸元に手を乗せて布越しの感触を楽しんでいた深澪は、堪えられなかったのか指先を布に引っ掛けて軽く下げた。


 いきなり露出されて、見られて恥ずかしい気持ちから逃げるために、そばにあった今さっき脱がされたばっかりの服を持ってそれを口元に当てて顔を逸らしながら隠した。


 慣れない感覚が怖くて、目と唇をギュッと閉じる。


 慎ましい触り方にいくばくかのもどかしさを覚えたけど、それよりも羞恥心の方が強くて、もっとしてほしいと思う余裕もなかった。


「…つけるね」


 深澪の顔が、落ちる。


「く、っふ……」


 肌に乗った湿った感触が皮膚を伸ばして、小さな痛みと内出血の跡を残してそっと離れた。


 刻まれる作業は何度か続いて、その度にピクピクと体中を震わせては、吐息まで震えて、口から熱く吐き出されては……すぐに、生ぬるいような空気中に溶けた。


「……天海」


 終わった後で、両頬を優しく包まれる。


「明日は信じて送り出すから…頑張っておいで」

「…うん」


 どちらからともなく唇が重なって、自然と手も恋人繋ぎになっていた。


「仕事中はなるべく、お話しちゃだめだよ」

「う、うん」

「何を言われても、とりあえずニコニコして…あんまり喋らないで」

「う…うん…?」

「とにかく声を出さないようにして」


 信じると言ってくれたわりにどんどん大きくなる要求と懇願に困惑する。声を出さないで、お仕事なんてできるのかな…?


 不審には思うものの、意地になって散々迷惑ばかりかけちゃったし、きっと深澪の言うことだからそれに従ったほうがうまく行くはず。ここはおとなしく言うことを聞いておこう。


「仕事はじまる前に、スマホだけ買っていこうね」

「いいの?」

「これから働くなら、どのみち必要になるから」


 持つのは早ければ早い方がいい…とイチャイチャするのは一旦やめて、その日のうちにスマホを買いにいくことになった。


 携帯ショップっていうところに連れて行かれて、何もかも分からないまま深澪オススメのスマホを選んで、わたしはほとんど使うこともないだろうからって簡単な機能のものにしてくれた。


 数時間くらいかかってやっと買えて、家に持って帰ってから、設定してもらいながら操作方法を教えてもらった。


 バイト探しで何度か借りてたから検索とか文字を打つのは少しずつ慣れてきてて、慣れないのはアカウント?作成とか……他にも本当に色んなことが出来るみたいで戸惑った。


「……あ!」

「ん?」

「写真撮れる!」


 試しに触っていたらたまたま開けた画面に深澪の姿が映って、丸いボタンがあったから押してみたらカシャリと音が鳴る。


「おー…覚えが早いね。もう写真使えるようになるなんて」

「わぁ、深澪だ!画面の中に深澪がいるよ…!」

「お前かわいすぎ。…あたしも撮っていい?」

「もちろん!」

「…………セックスの時も撮っていい?」

「ハメ撮りってやつだ…!だけどそういうの、リベンジポルノっていうんだよ。だからだめなんだよ、ネット社会は怖いんだよ」

「ハメ撮りだめか。…てかどこで知ったの、そんな言葉」

「テレビのニュースで見た」

「ニュースからまともに知見を広げるサキュバスなんているんだ…」


 面食らった深澪もまた写真に収めておいて、わたしばっかりずるいと言われたからスマホを向けられてすぐピースサインを作って笑った。


 てっきりさっきみたいに一回だけカシャ、っていうと思ったら深澪の持つスマホからは凄まじい勢いでカシャシャシャシャシャって何度も聞こえて、驚いてせっかくの笑顔も消える。


「へ……なにして…?」

「連写した」

「“連”続で“射”精したの!?今の一瞬で、おちん○んもないのに?」

「ちげえよ、“連”続で“写”真を撮影したんだよ。…そこまで来ると才能だな」


 あ…なんだ、びっくりした。


 なんでも下ネタに繋げちゃうのやめよ……と思ってもどうしてか脳が自動的にそう変換しちゃうから、もしかしたらこういうとこだけはサキュバスらしいのかもしれない。…嬉しくない。


「やっぱり明日は、何があっても絶対に相槌以外は喋んなよ」

「わ、わかった…」


 改めて肩を掴まれて念押しされて、気圧されながら頷いた。


 わたしそんなに……変なことばっかり言ってるのかな。


 深澪以外の人と関わったことなんてほとんど無いから、判断基準すら無い。…こういうところを解消させるためにもやっぱり、仕事頑張らないと。


 とりあえず明日の仕事は明日がんばるとして……


「天海…ほら、もっとがんばって。逃げないで」

「っはぅ……み…深澪、まって…ぇ」

「早く慣れてもらわないと。最後まで進めないよ」

「う、んっ…わかってる、けど……っぅあ」

「今日はコッチだけで、可愛がってあげるからね」


 今はなんとか、深澪との夜をがんばって乗り越えないと。恥ずかしいけど、深澪のためだもんね。


 後ろから抱き止められる形で、ひたすらに控えめな部分を弄ばれたわたしは気絶しないようにだけ耐えながら、その日は結局……久しぶりに夜ふかしをすることになった。


 わたしのペースに合わせてくれてるからか、深澪は最後まですることはなかったけど、


「はい、責任持ってちゃんと食べてね」

「~っっ………も、もうおなか、いっぱい…っ」

「おかわりはまだまだあるよ?」

「ぅうう…っ~……後生ですから…ぁ!もう許してぇ…っ!」


 胸とお腹がいっぱいになるくらい特大の精力を、遠慮もなしにぶつけてくる時間が続いた。


 せ、性欲ない方って、前は言ってたのに…!


 文句は心の中だけで抑えて、文字通り夜の間ずっとわたしは与えられる精力に溺れていった。 


 


 

 

 

 













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