第七話

 それから三日が経った。デュランダルにメノウ配下の若いのが二十人殺され、屋敷は全焼した。辛うじて生きていた一人は集中治療室送りで意識もまだ戻っていない。私の左手は義手になったが、これは必要経費だろう。

 デュランダルを退けたと合わせて、辛うじて首が繋がったという評価か。とりあえず配置換えや左遷人事は無し。現状維持はできたか。

 仕方がないのでメノウが私の住んでいる部屋にしばらく住むことになった。土御門兄弟ファッキンブラザーズの中で高度な判断がされたのだろう。

 

「おやすみなさい」


 高度な判断の結果、ベッドが占領され、私は寝袋で寝ることになった。ソファーを買っておけば良かったな。

 お嬢様にベッドを占領される屈辱は、段々腹に据えかねるものとなっていった。コンビニでハーゲンダッツ買って頭を冷やすか。


「コンビニ行ってきます」


 寝間着にジャケットを羽織って部屋を出る。


「手ぇ出さないの?」


 道端の電柱から見下ろしてきた烏がそう言ってきた。焦げたような匂いがする。

 紅世グゼ課長の支配下にある烏が、遠隔操作でお言葉を伝えてくる。


「常識的に考えて上の人のお嬢様に手出すわけないでしょう」

「おっぱい大きいの嫌いなの?」

「セクハラですよ」

「ごめん」


 自分でも口にしていて馬鹿らしくなるようなやり取りだと思う。


「いやね。デュランダルくんがメノウのこと殺したがっているから君が配置換えされたら殺そうと思うんだ」

「私は勘定に入れなくていいんですか?」

「デュランダルくんも叩いたら冷静さ取り戻したし、そこまで物分かり悪くないし……」

「物分かりが悪いとは思っているんですね」


 紅世グゼ課長は部下に甘く、問題行動を起こしたデュランダルに対しても甘かった。デュランダルは元から潜入捜査官の一人であり、紅世グゼ課長の指示をガン無視して結婚し、我を忘れて暴れ回った。女に現を抜かすような奴は使い物にならないと思うのだが。


「まあいいや。君はたぶん誰にも心を開かないから問題無いね。これからも頑張ってね」


 人として欠陥があると言われたような気がする。

 

 それからコンビニでアハーゲンダッツを買い、更にもう少し歩いた。何の変哲もない高層マンションが見えた。私の実家があった土地だ。

 憎しみを忘れないように定期的にこのマンションを見上げる。こんなもののために両親は焼き殺されたのだ。

 ハーゲンダッツが溶ける前に部屋に戻ろう。憎しみとは適度に付き合うに限る。


 

 

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地獄にまつわる事柄(あるいはたとえ灰になっても) 上面 @zx3dxxx

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