第四話
冷たい雨の降る夜だった。
「よっ」
“裏切り者の”土御門ナオヤがメノウに与えられた屋敷兼事務所に顔を出した。“”で囲まれた部分については
その姿は歓楽街に腐るほど居る股の緩そうな女のそれであるが、股間には男性器が付いている。メノウと並べば姉妹のように見える外見年齢を維持しているが年齢は五十近いはずだ。何かしらの方法で老化を抑制しているのだろう。
ナオヤは私に一瞬視線を向けすぐに反らした。私がキョージからメノウに付けられた監視ということは分かっているのだろう。ナオヤはキョージのことを頼みにしているが、キョージはナオヤのことを比較的使える頭数合わせとしか思っていないと噂されている。
「お父様、見て見てー」
事務所の共用冷凍庫の底でずっと邪魔だった老人の首級をメノウは取り出した。
「ああ。西の老害の首か。よくやったな」
ナオヤはメノウの頭を大型犬をあしらうように撫でる。迷惑そうな顔をしているが、褒めている。不必要なくらい甘やかされると我々が苦労するのだが。
「特に怪我もなく老害の首取れたようだし、次はもうちょい重要な仕事任せようかな」
メノウが出世していくに従って私も中核に近づいていく。最初はやや左遷人事と思ったこの配属も運が回ってきたか。
「何々~?」
メノウが顔をナオヤに近づける。
「デュランダルの妻、切ってこい。今すぐ」
ナオヤが小声で汚れ仕事を囁いた。私の聴力ならば聞こえる程度なのでそこまで隠し立てすることではないのだろう。着服か裏切りか組織内政治か、何らかの理由でデュランダルは排除されることになったのだろう。このような場合、組織ではその者の身内も見せしめに殺害することになっている。
「オリヴィエ、車出して」
メノウは物干し竿にかけたままだったグレーのツナギを着ながらそう言った。洗い替えがあった方がいいかもしれない。
「何処まででしょうか?」
私はこの拳があれば十分だ。訓練されていない女を殺すのに表道具は必要ない。
「デュランダル・スミスの家まで」
メノウはピンク色に塗装されファンシーなステッカーが貼られたロッカーからメノウの愛用斧を取り出しながら答えた。
四十分ほど車を走らせた。
車をデュランダルの自宅があるマンションの前に止める。
「行けますか?」
やる気がないのならば、自分が殺してもいい。お嬢様からの覚えを良くすることも私の仕事の一つだ。デュランダルの妻であるならば、死んで当然の人物だろう。反社に関わっているような人間も同罪だ。そもそも私はここに潜伏するために大勢の無辜の国民を殺してきた。今更一人二人増えても地獄行きは変わるまい。
「お父様が私に頼んだんだから、私が
本人はやる気に満ちていたので、お任せする。私はメノウから車の運転しか頼まれていない。
メノウがインターホンで適当な理由を喋って
デュランダルの妻の頭部に斧が刺さり、頭が割れて中身がこぼれた。メノウは走って戻ってくる。
「お疲れ様です」
労いの言葉をかける。
「うん」
メノウは一丁前に衝撃を受けたような顔をしていた。無抵抗の人間を殺すのは初めてなのか?殺す相手が身重なら殺し易くいいだろうに。何故自分がまともな人間みたいな顔をしている?
車が走り出してしばらくすると、一台の対向車が通り過ぎた。その車にはデュランダルが乗っていた。遅かったな。
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