RPGはハードモードで

読破

第1話 プロローグ


 カッカッカッ……。


 靴の音を聞きながら先の見えない廊下を歩く。


 蝋燭は青く怪しげに当たりをてらし。


 黒く単調に塗られた床や壁は自身に重く伸し掛る。


 それとは対照的に煌びやかな装飾をされた赤いカーペットは、長く続く廊下に沿うように轢かれ、足取りが重く、鈍重になっていく。


 これまでの思い出が回想となって頭を巡るが、その回想を楽しむ余裕もないままに足は繰り返し歩みを進める。




 ~~~~~~


 いつの間にか廊下の終わりへとたどり着いたようで、先には大きな扉。


 黒く縁どられた赤い扉。


 それは重苦しく先を閉ざし、侵入者を決して許さないかのような威圧感がある。


 この扉の先にいる自分より高位な存在と対峙しなければならないと言う事実は、自分を終わりの門口へと誘うようで、引き返したい欲求に駆られる。




 だが勇者としての自分はそれを許してくれない。


 勇者という言葉が自分の逃げ道を無くし、圧倒的な責任感だけが募る。



「そうだ……。大魔王を倒さなければ……。」


 半ば強制的に送り出された自身の使命は、大魔王を倒すこと。

 それ以外に道を送ってこなかったし、今ここで迷う必要も無い。


 及び腰になった自分の意思を、口から言葉にすることで喝を入れる。




 ~~~~~~


「づけづけと我の城に足を運び何用じゃ?勇者よ!まさか殺されに来たわけでもあるまい。」


 玉座に座っている者は、およそ人間の姿をしていなかった。

 竜のような鱗に、亀のような甲羅、鳥のような足に、虎のような牙。

 見るだけで恐怖が体の底から湧いてくる。


「その逆だ!たくさんの罪なき人々を殺し、非道の限りを尽くした……。お前!私はお前を殺しに来たんだ!大魔王!」


 恐怖を誤魔化すように強い言葉で反論する。


 だが大魔王はそれを見透かしたように笑う。


「フフっ……。勇気と蛮勇は違うぞ?勇者よ。まぁよい。小僧がその気ならその問いかけに答えてやらんでもない。」


 ゆっくりとした動作で玉座から腰を上げると、横に立てかけてある立派な杖を手に取る。


「ッ……!」


 大魔王が攻撃の動作に移る前に首元に剣を突き立てようと走る。


 だが少し遅かったようで10歩先で大魔王が魔法を発動する。


 それに条件反射するように今度は後ろに構えて魔法に対する準備を……。


 スドドドッ


 後ろから音がして振り返る。


 先程まで威圧的に存在していた扉は土の壁で覆い隠されてしまっていた。


「なぜ!」


「まさか、いきなり突っ込んでくるとは思わなかったが……。まぁよく言うであろう?【大魔王からは逃げられない】とな。」


 少し驚いた表情をしながら、心底面白そうに大魔王はそう言った。


「バカにするのも大概にしろよ!大魔王!」


 今度こそはと近寄り剣を打ち出す。


 杖に、甲羅に、鱗に。


 何百回と打ち合うが大魔王には届かない。

 体制を立て直そうと後ろに下がる。


「フッ……。もう息が上がっているぞ?まぁでも人の身でありながら、そこまでの剣戟を打ち出すか。面白いな貴様。」


「クソッ……。~~~~」


 今度は魔法を放とうと詠唱を口ずさむ。

 光の、魔族である大魔王には弱点となる属性。

 ただ当の大魔王は笑みを深めるばかりで避けようともしない。


「舐めやがって!八階級!ジャッジメント!」


 剣より放たれし光は部屋を覆い尽くして大魔王へと直撃する。

 魔王の顔半分が消し飛び、杖も砕け散った。


「やったか!?」


 まさかここまでのダメージがあるとは思っていなく思わず口から喜びが出る。




「これは……まさか八階級まで使えるとは驚いたぞ!少しヒヤリとしたが、俄然、面白いな貴様!」


 そう言いながら逆再生のように大魔王は回復していく。

 これでもダメなのかと心が折れそうになるが、踏みとどまり虚勢を貼る。


「これで死なねぇのかよ!化け物め!だが杖も無くなって魔法も使えなくなったんだ!こっちが有利になってしまったぞ!大魔王!」


「あぁそうだな!勇者よ!ところで訂正しよう、お前のその勇気を認めようでは無いか!」


 大魔王はパチパチと拍手をしながら近づいてくる。

 いつでも切りかかれるよう剣を構えるが、気にもしていないのか大魔王は足を止めない。


「勇者よ!お主はここで殺すには少し惜しい!そこでだ。我と一緒に世界を征服しないか?この提案を飲むなら世界の半分をお主にやろう!」


 そんな馬鹿げたことを言いながら大魔王は目の前に来た。

 切りかかろうと思えば首を切り落とせるんじゃないかとも思える距離。

 だけど切りかかることは、ついぞ出来なかった。


「な、なにを言っている!お、俺は勇者だ!そんな馬鹿げた提案に乗ると思っているのか!だいたい世界の半分なんか持っていないし、やるつもりもないんだろう!」


 勇者である自分に対する提案としてはあまりに非現実的で馬鹿げた提案。


「分かっておる。だが、お主が協力すれば数年も経たずに世界は我のものに、世界の半分はお主のものになる。」


 分かっている。コイツと協力すれば世界なんてすぐ手に入ってしまうんだろうと。

 馬鹿げてなんかない、現実的な提案だと。


 そして


「それに我は【勇者】に言っておるのでは無い。

 お主に言っておるのだ。勇者の息子、レオンハルトよ。」


 勇者としての俺にではなく、戦った相手に向けた敬意ある提案だということも。


 分かっているんだ。


「だ、だが!俺は勇者で!世界を救わなければ!」


「世界がお主のものになれば平和になるであろう?利害の一致だ。もはや断る理由もあるまい。」


「……ッ」


「お主は、ハイと頷くだけでいいんだ。」


「もう一度聞くぞ?」




「レオンハルトよ。世界の半分をお主にやろう!協力してくれるか?」


 分かっている。


 分かっていたんだ。









 おれは……?






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