俺が嫌いだ
ヤスミ
俺が大っ嫌いだ!
そんな人が俺の彼女だった......
そう、だった......ついさっきまでは
「
「いえ!大丈夫ですよ、鈴音先輩!」
俺はこの人の隣に立てるように必死に勉強をして、体も鍛えたし雰囲気イケメンくらいにはなれるように努力した。
独りよがりな努力は無事実ったのだ。
それから1年、夢のような生活だった。
色んなことを2人でして、順風満帆な人生だったのに
「1年と少しの間、縁くんのおかげで私はとっても幸せだったの、でも私たち別れましょう?」
「ど、どうして」
「私、好きな人が出来たの、ごめんなさい」
「そうなんですか......」
おい!どうしてだよ、なんでなんでもう諦めてるんだよ!
お前は先輩のことが好きで好きで大学まで追いかけて努力してやっとやっと手に入れた彼氏という座をどうして!そんなに簡単に諦められるんだよ!
心がいくら叫ぼうとも俺の口は動かない。
昔からそうだった、なにかに本気になっている振りをするのが上手かった。
「ごめんなさい、本当にこの1年間楽しかった、でもこのまま付き合っていてもいい事なんてないと思うの」
「......分かりました、先輩も好きな人と結ばれるといいですね!1年間楽しかったです」
どうしてだよ!足掻けよ!もがけよ!なんで!どうして!
必死に努力したんだろ?勝ち取ったものを手放すなよ!
相変わらず俺の口は動かないどころか先輩への祝福の言葉を贈り始めた。
そう、俺は保身に走っているのだ。
最後まで先輩に見苦しい姿を見せないように、さも余裕があるかのように振る舞う見栄っ張り。
きっと俺は本当に先輩のことを愛していない......
だから、この場に及んでも見栄を張るなんてダサいことができる。
「えぇ......私も縁くんが新しいいい人を見つけれることを祈ってるわ......」
「はい!では!先輩のこと陰ながら応援してますから!」
あぁ......また無理だった。
今回こそは本気になれたと思ったのに
昔からそうだった
他人にどう見えるかが最優先で、自分なんてなくて
それでも自分を作りたくて
この恋が俺を変えてくれるって信じてたのに
十数年俺の身に染み付いたこの癖が変わることなんてないままに人生最大のチャンスを逃してしまった。
ダサい、惨めだ。
どうして世間体なんて気にするんだよ。
最後まで余裕ぶってれば誰かが評価してくれるのかよ......
今からでもいい、このまま踵を返して泣きつけよ......
先輩捨てないで、俺は先輩が居ないと無理なんだって
そんな心の声に俺の体は耳を貸すことなくまっすぐと思い出の丘を下る。
この丘は星が綺麗に見えるんだ。
昔からずっと好きで俺が先輩に告白した場所......
「あぁ、クッソ」
濡れた頬に夜風が吹く。
冷たさが俺を現実に引き戻し、俺の惨めを笑っているようだ。
◇春崎鈴音
「縁くん......」
1年前と2ヶ月5日前の日曜日、デートの帰り夜遅くに私は彼に連れられて丘の上に来た。
何の変哲もない丘の頂上にはポツリとベンチが数個置かれているだけだった。
ずっと私のことだけを見て慕ってくれていた後輩くんに私は心を惹かれていった。
そしてついに彼はこの丘で告白してくれたのだ。
もちろん返事は『はい』
そこから1年2ヶ月5日がたった今
その丘で彼に別れを告げた。
好きな人が出来たなんて嘘だ。
私はまだ彼が大好きで大好きでたまらない。
これからもずっと私の隣にいるのは彼だって思ってた。
だけど、好きになる度、彼が私のことを好きなのか疑念を持つようになった。
愛情表現はマメにしてくれるし、連絡も早い、お泊まりをした時も率先して家事などをしてくれたし、いつも優しかった。
なのにどこか心が私の隣にないような気がして
だから試したかったこれではっきりと意志を示してくれるなら結婚しようと私から告白するつもりだった。
でも、彼は受け入れてしまった。
待って!
そう叫びたかったのに、彼は走ってどこかへ消えてしまった。
2度目だ、この丘で涙を流して嗚咽するのは......
あぁ、本当はここでもうひとつ幸せな思い出を作ってこの涙の意味も違ったはずなのに......
振り上げた拳は下ろせない。
この疑念に蓋をして告白だけしていれば幸せだったのだろうか?
「......きっとこれで良かったよね」
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こういうしんみりというか後味の悪い小説を書くのは初めてでどうでしたでしょうか?
いいなと思った方は応援をよろしくお願いします......
作者の表現の幅を増やすための練習みたいなものですので皆さんの評価を教えていただきたいです。
俺が嫌いだ ヤスミ @minonononon
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