第10話定期テスト 中編

「祐立、私ダメかもしれない」

俺は2人っきりの部屋で、天子に抱きつかれている。

勉強会だったはずなのになぜこんな事に,,,


ピーンポーン

「はーい」

ドアを開けると2人が立っていた。

「おじゃましまーす」


2人をリビングに誘導しながら重そうな荷物を抱えてる亜美に礼を言う。

「亜美、ありがとうな」

学年一位である亜美には勉強会に参加するメリットは無い、それなのに来てくれた事には感謝しかない。


「大丈夫だ、それより、、、

何で留年する事を黙っていた!

私なら職員室に入ってお前のテストを改ざんする事なんて造作もないんだぞ。」

と天子に怒鳴る。


「だって、心配かけたくないし、亜美ちゃんに悪いことさせたくない。」

「留年寸前まで赤点を取ることも十分悪いことだろうが」

「まあまあ、こうして赤点を回避しようと頑張ってるわけだし」

「フン」


始まる前に1悶着あったが難なく勉強会は始まった。

亜美は教えるのも非常に上手く、普段の倍ほどの速度で理解が進む、本当に隙のない奴だと素直に感心した。

勉強を初めて30分程経った頃だろうか、スマホをチラリと見た天子がソワソワとしだした。

そして、しばらくしてバツの悪そうに、

「ごめん、今日帰って良いかな?」

「何故だ?テストは明日なんだぞ」

「なんか、近所の犬が迷子になっちゃったらしくって,,,」

と心配そうに言う天子に対し、亜美は怒りで震えながら、

「馬鹿かお前は!次赤点取ったら留年なのだろう、何処の馬の骨とも分からない犬は将来より大事なのか!」

「でも、留年は取り返しつくけど犬が車に轢かれたりしたら、もう戻らないんだよ」

天子も声を荒らげる。

俺は、そんな天子をなだめるように

「今回は亜美の言ってる事が正しい、来年一緒に進級して修学旅行とか行きたいだろ。」

「でも」

「でもじゃない、良いからこの問題を解け」

こういう時の亜美はとても頼りになる。

こうしてまた、鉛筆の音だけがなる時間に入った。

しばらくすると天子が、

「ちょっとトイレ行ってくるね」

と部屋を出た。

そしてその数秒後に、

「私も少し外に出てくる」

そう言って亜美もドアを静かに開けた。

1人になった部屋で参考書を見ていると、

部屋の外からドタンバタンと物音がした。

気になって部屋の外を見ると玄関で亜美が外に出ようとしていた天子を羽交い締めにしていた。


「いい加減にしろ!犬はお前が居なくても見つかるが、お前の赤点回避はお前にしか出来ないんだぞ」

「でも、」

「でもじゃない!」

俯く天子を見て、

「ッチ」

「じゃあ私が行く。お前のような鈍臭い奴より私の方が確実に早く見つけられる」


「でも亜美ちゃんに悪いよ」


「私がお前の為に徹夜して作った勉強用ノートを使わない方が悪いだろうが」

天子ははっとしたような表情を浮かべ亜美の手を握りながら、

「ごめん、お願い,,,」

それを聞いた亜美は天子の頭を撫でながら、

「神田、行ってくるから、分からない所はそのノートを見てくれ」

それだけ言って出ていった。


そして、俺達はは亜美のノートを参考に順調に勉強を進めた、

「ねぇねぇ、これってどうやるの?」

「それは、確かさっき亜美が言ってたこれじゃないかな」

「そっか,,,」


勉強に入ってしばらく経った、区切りがついたためふと隣を見ると、天子がポロポロと涙を流していた。

「私、ダメダメだよね。勉強もできなくて、心配してくれた亜美ちゃんにまで迷惑かけて。私、もうダメかもしれない」

確かに今回の件は亜美の勉強時間を大きく奪っており試験に影響があるかもしれない。しかし、

「ダメじゃない、お前のその優しさはたくさんの人を助けて来た、亜美が今回手伝ってくれたのだってお前の優しさが好きだからに決まってる」

それを聞いて天子は泣き崩れた

「ありがどぉー」

その後、勉強を続けた俺達は無事に小テスト(亜美作)で満点を取れた、亜美はというと2時間後に例の犬をしっかりと飼い主に届けて帰って来た。

亜美は、天子に対して文句をたれていたが小テストで満点を取った事を話すと静かに微笑んでいた。


3人は心の荷が全て降りたような気持ちでテストに望んだ。



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