第2話 天使と悪魔の焦燥

「むうー」

御使 天子は怒りで頬を膨らませている。

(祐立ったら、財布と私を置いていったことを一言ぐらい謝ってくれたっていいじゃん。)

そう、先刻の神田祐立の態度に対してである。


ちっちゃい頃は落し物を見つけたら必ず私と一緒に交番まで届けてくれたのに、一体どうしちゃったんだろ。昔を思い出しながら祐立を見つめていた時、


「えー、人間はね他の人の影響を受けやすい生物です。特に君たち子供はここから赤にも青にも染まるのでね。友人関係、恋人、先輩後輩、自分がどうなりたいかを考えて人間関係を築きましょう。」


天子は、はっとした、それまで抱いていた疑問の回答がふとしたところから出てきたからだ。(そうか、祐立が最近ちょっと変だったのは亜美ちゃんの影響を受けていたからだったんだ!)


天子の悩みの種が1つ消えた、と同時に悩みの種が1つ降ってきた、それは真心 亜美と関わり続ける限り神田 祐立の性質は変わらないという事だ。


どうしよう、別に亜美ちゃんの事が嫌いなわけじゃないけど、このままだと祐立が優しさを無くしちゃう。でも、今まで通り3人で仲良くしたい、私の祐立に対する影響力がもっと強くなれば,,,

そんな事を考える天子に良いアイディアが浮かぶ。


(そうだ!私が祐立と付き合えばいいんだ、そしたらきっとみんなに優しくする事の素晴らしさが伝わるはず!)

「そうと決まったら今週末2人きりのデートに誘おう」

やるべき事が決まった天子はフンフンとやる気を燃やしていた。


「はぁー」

真心 亜美は悩んでいた、

(なぜ神田は先程札を抜かなかったのだろうか?

リスクを考えるにしても割引券や商品券くらいなら抜いても大丈夫なはずなのに。)

そう、今朝の神田祐立の行動についてだ。


幼い頃は財布を見つけたら山分けして菓子を買ったと言うのに。

一体何が奴を変えたのだろうか。過去を思い出しながら原因を考察していると。


「えー、人間はね他の人の影響を受けやすい生物です。特に君たち子供はここから赤にも青にも染まるのでね。友人関係、恋人、先輩後輩、自分がどうなりたいかを考えて人間関係を築きましょう。」


亜美は天啓を得た。それと同時に原因がすぐ側にいた事について笑いが込み上げてきた。(なるほどな、神田がお人好しになった原因は御使か。)


原因を把握した亜美はすぐさま解決への筋道をいくつか立てた。(御使に他人を助ける無意味さを諭してみるか?それとも時間の有限さを理解させるか?)


合理的かつエゴイストな彼女の案の中に天子本人に害をもたらすものが無いのは、彼女とて天子を憎からず思っているからだろう。

とはいえ、


(このまま影響を受け続けると神田が全財産を投げ出してでも他者を助けるお人好しのあんぽんたんになってしまうそれだけは防がねば)

悩む亜美に妙案が浮かぶ。



(そうか、私が神田の恋人になれば良いのか!そうすれば世渡りにおいて他人への優しさなど無意味である事に気づくはずだ!)


「そのためには、2人きりで話す場が必要だ。週末に奴の好きな水族館にでも誘おう。」

そうと決めた亜美はデートの会話やエスコートするルートなどを考え始めた。



ピコン,その日の夜、祐立には2件のLINE着信があった。





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