天使と悪魔に魅入られました。

カイ氏

第1話 天使と悪魔

神田祐立かんだゆうだちは少し流されやすいだけの普通の高校生だ、平穏を愛する俺は今、ものすごくめんどくさい状況にいる。この高価そうな財布と、後ろでギャーギャー騒いでいる天使と悪魔のせいだ。



 数分前,,,

「これは財布か?」

俺は道の端に落ちていた財布を拾った。どうするべきか考えていると後ろから、幼なじみの 御使天子みつかいてんこが、


「お財布じゃん、落とした人が困ってるかもしれないし交番に届けてあげよ!」


と、俺の手を掴んで交番の方向に引っ張った、俺がそのまま引きずられていると、反対側の手をガッと掴まれる。


「本当にに持っていくのか?」


 待ったをかけたのはもう1人の幼なじみ、 真心亜美まこころあみだ。


「交番に持っていくと色々な書類を書かされて時間を食う、今から行けば遅刻だぞ、だからそんな財布は札を数枚抜いてからその辺に戻して置いた方が良い。」

と、髪をかきあげながら言った。


 それを聞いて我慢ならなくなったのか、

「そんな事したら落とした人が悲しむじゃん!」

と大声でご最もな正論を主張する。

「フン、大事な財布を落とす程度の自己管理の奴がたった数枚抜かれただけでで気づくわけないだろう。」

こっちはこっちで馬鹿にしたような目で見ている。


 俺は、(また始まったよ。)と思いため息をついた。

祐立ゆうだちはこんな悪い人の言う事は聞かずに交番に持って行くよね?」

「神田はこんな物と時間の価値の分からぬバカの言う事など聞かないよな!」


 そう言ってまたギャイギャイと喧嘩を始めた。俺は面倒くさくなり、財布を近くの塀に置いてそのまま学校へと歩き出した。


 教室に入ると、クラスメイトが驚いたような目でこちらを見てくる、その視線の居心地の悪さから早足で席に着くと、友人の佐々木が、

「おいおい、いつもの彼女2人はどうしたんだよ、喧嘩でもしたのか?」

と、小声で聞いてくる。

「だから彼女じゃねぇって。」

俺の反論も聞かずに、


「いやーでもマジで羨ましいわー、清楚でモデル体型で文武両道の真心さん、人気者で子柄で天使の様に優しい御使ちゃん、学校のマドンナ2人と毎日登校出来るって、前世でどんな善行を詰んだんだよー」

と、好き勝手言う。


確かにあの2人は顔も良く人気者だ、だがコイツのデータには性格が入っていない。超が付くほどのお人好しでお小遣いをもらったその日に使い果たす天子、超が付くほどのエゴイストでバレなきゃ犯罪じゃない理論の亜美、両者と付き合うには普通の感性ではまず無理だろう。


そんな事を考えていると。

「こらぁー、私たちを置いていくなー!」

そんな声と共に走って来た天子が俺の机を叩いた。

 そしてその後ろから、亜美が膨れっ面でがら入ってきた。


そんな状況を見て佐々木が、

「うわお前、この2人を置いて来たのかよ、有り得ねぇー。」

と大声で言いやがったため。

 クラスメイトからの視線が一気にこちらへと集まる。


 クラスメイトがヒソヒソと

「あの2人っていつも朝早くに来るのに、今日こんな遅く来たのは神田が来るのを待ってたからってことか?」

「普段クールな真心さんがあんなに怒った顔をしてるんだ、きっとそうだ!」


 なんて事を話している。心外だ、2人が遅れて来たのは天子は財布を交番に届けようとして亜美が財布の中身を抜こうとしたからだろう、そしてあの膨れっ面を見る限りいつも通り阻まれたのだろう。その証拠に、天子の背中をずっとつついている。


が、とりあえずこのままだとクラスメイトに殺されてしまうため、2人に謝ろうと思った時、

「はーい席に着いてー」

 最悪なタイミングで先生によってHRが始まった。


「えー、人間はね他者の影響を受けやすい生物です。特に君たち子供はここから赤にも青にも染まるのでね。友人関係、恋人、先輩後輩、自分がどうなりたいかを考えて人間関係を築きましょう。」


 そんな先生の有難いお言葉を話半分で聞きながら机に突っ伏して眠りについた、後ろで2人の少女が決意に燃えているとは知らずに。




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