ケース1 イジメ〈後編〉

今回のLAWの議題はイジメ。

このケースの大半は加害者側が負ける。


僕も最初はそう思っていたが…


「ぼ、ぼくはな、何もしていない!な、何もしていないはずだ!」


前田は咄嗟にそう言い返す。


「前田さん。落ち着いてください。しかし、一つ気になる点があります。何もしていない”はず”というのはどういうことでしょうか?」


「た、ただの言い間違いです。す、すいません。してません。」


前田の様子がおかしいのは明白だった。


「後藤さんに質問です。前田さんは何もしていないと言っていますが、いったい前田さんに何をされたのか話せますか?」


そう裁判長が質問すると、後藤は数十秒の沈黙の後、重たい口を開いた。


「…はい。あれはまだ私も前田さんも8歳の頃でした。まだ幼かった私はよく前田さんと遊んでいて、仲は良かったと思います。」


後藤は前田との思い出を語っていった。

そして、核心をつく話へと展開していく。


「…わ、私はまだ何も知りませんでした。その時、前田さんにお飯事ままごとの一部だとして、裸にさせられ、足を無理やり開かれ…」


後藤は前田が自分に対して性加害をしていた事実を話していった。


いくらお互い子供だったから許されるとは、お世辞にも言えないような内容だった。


「ぼ、ぼくはそんなことしていない!!」


前田が取り乱す。


「前田さん静粛に!!後藤さん。続けられますか?」


「はい。私が何も知らなかったのが悪かったのかもしれません。その後、あらゆる物を使い、股を引き裂かれ、最終的には…」


「後藤さん。ありがとうございます。もう充分です。」


おいおい。

それってつまり…そういうことだよな。


「前田さん。何か言いたいことはありますか?」


「そんなことはしていません!しょ、証拠!証拠を出せ!ぼ、僕を陥れようとしてるだけだ!」


確かに証言だけでは足りないかもしれない。

しかし、これはLAW“共感を得る”ことが大切なんだ。


「後藤さん。何か提出できる証拠はありますか?」


裁判長の質問に後藤は即答した。


「はい。」


後藤は法廷の中心に行くと、服を全て脱ぎ捨てた。


その身体を見た瞬間。

全ての物事は明白だと感じた。


ただ、感じただけだが。


法廷いる者。

中継を見ている者。


彼女の語ること、立ち振る舞いに皆が心を打たれたのだ。


——判決


「では、判決に参ります。まず法廷にいる者の投票結果を開示。」


キラー前田福へ共感 40%

シープ後藤幸へ共感 60%


「法廷ではシープ後藤さんへの共感が過半数を占めました。では最後に国民の投票結果を開示。」


キラー前田福へ共感 0%

シープ後藤幸へ共感 100%


「よって、シープ後藤さんへ殺害の権利が与えられます。この決定は覆りません。」


判決が下された。


「な、なんでだよー!証拠もないのに!なんでだよーーー!!性犯罪だと!!被害者だと!!!女がそう言うだけで、そ、それだけで、、それだけで」


前田が断末魔のように言葉を放った。


「これはLAW。共感裁判です。共感を得たものが正義なのです。しかも、貴方が申し入れをした裁判です。負けることを考えずに挑んだことが浅はかだ。」


前田はその場に崩れ落ちた。


この世の中は残酷だ。

正義が悪にもなるし、悪が正義にもなる。


弱い者が救われるとも限らないし、強ければ生き残れるわけでもない。


そんな世の中、どうやって生きていけばいいんだと人を嘆くだろう。


僕もそうだ。

正解は分からない。


「では、後藤さんへナイフを」


裁判長がそう告げると後藤はこう返した。


「いえ、私は前田さんを殺したくはありません。私の辛かった想い出を1人で背負わされるのが、苦しかったんです。ちゃんとその記憶と一生向き合って生きていって欲しい。」


「そうですか。分かりました。ではこの裁判これにて…」


閉廷する直後、前田がこう言い放った。


「こ、こんなせ、世界で生きていられるかー!」


すると、後藤の前に置いてあるナイフを手に取り、自身の首を切り裂いた。


法廷に血飛沫が飛び散る。

しかし、悲鳴も何も聞こえない。


「では、閉廷します。」


——カンッカンッ!


なんて後味の悪いLAWだったんだろう。

それなのに裁判長は顔色一つ変えない。


例え、前田が生き延びても、この先どうなるか目に見えている。


国民の共感 0%なんて…すれ違う人々全員が敵に見えるだろう。


そんな生活耐えられるわけがない。


この世界は狂ってる。


ケース1 終わり

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LAW〜共感裁判〜 永久 太々(ながひさ たた) @21012230

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