ケース1 イジメ〈前編〉

今日も憂鬱で残酷な1日が始まる。


——カンッカンッ


「本日のLAWを改定します。」


「キラーは前へ」


裁判長が号令をかけた。


「まず、名前と動機を話してください。」


「は、はい。ぼ、僕は前田まえだふくと、もも申します。」


今日のキラーはかなり動揺しているようだ。


「前田さん。では動機を述べてください。」


裁判長は相変わらず、淡々と冷たく、まるで心なんてないロボットのように進めていく。


「は、はい。僕は中学生の3年間。ずっとイジメをう、受けていました。大人になっても集団で行動する際に、その頃の記憶がよ、蘇ってしまい、社会でも上手くやれずにいます。」


イジメか。

この制度が始まってから嫌というほど、この事例は見てきた。


ほぼ9割方キラーが過半数で決定だろうな。


「はい。分かりました。一度お下がり下さい。」


「次にシープは前へ」


シープが前に出る。


「まず、名前をお願いします。」


「はい。私は後藤ごとうさちです。」


「キラーの意見に対し、何か言いたいこと、伝えたいことはありますか?」


今回のシープはかなり落ち着いているな。

何か妙だ。


「はい。キラーの言っていることには真実が欠けています。なにせイジメを受けていたのは私ですから」


裁判官も勿論、傍聴席がどよめいた。


は!?キラーもシープもイジメを受けていたって?こんなLAWは初めてだ。


「お互いの意見が真っ向から対立、正反対となるとどちらかが嘘をついていると思われますね。」


裁判長は淡々とそう告げる。


「ぼ、僕はう、嘘なんかついていません!」


「勝手に発言しないように。これはLAWです。この場に居る人々は勿論、全国の人々がこの模様を見ています。立ち振る舞いには気をつけるように」


前田はそれを聞くとガクッと椅子に座った。


いくらイジメられてたからと言っても、この世の中はイジメられる奴にも原因があるなどと、ほざく奴もいる。


現時点では今回のLAWに正義も悪もないのだ。


「後藤さん。イジメをしていた側がイジメられたと言うのは中々考えにくいと思われますし、この法廷に立つということは相当な覚悟が必要です。あなたは本当にイジメを受けていたのですか?」


そう裁判長が後藤に問いかける。


「はい。確かに前田さんはイジメを受けていたのは事実だったと記憶しています。しかし、そのイジメが始まった原因を前田さんは記憶から抜け落ちていると思います。」


「では、前田さんが言うようにイジメはあった。と言うのは事実と認めるんですね?」


「はい。その時、私も加担していたのは認めます。」


またここで法廷は大きくどよめいた。


最初はどうなるかとおもったが、真っ向から『イジメに加担してました』なんて言うなんてどうかしてる。


このLAWも結果は見えたか。


「次に前田さんへお聞きします。後藤さんが言っているイジメが始まった原因は理解していますか?」


「そ、そんなの!き、気持ち悪いとか、ブサイクとか、ただウザいからとか!そう言われてきたんだから、そ、そんなことに決まってるでしょ!」


「前田さん落ち着いてください。」


「あっ。はい。すいません。」


キラーの前田さん。

イジメを受けていたことが事実ならもっとどっしり構えていればいいのに、何故あんなに焦っているんだろうか。


トラウマってやつからくるものなのか。


「後藤さんにお聞きします。前田さんはこのような理由だと述べていますが、反対意見ありますか?」


その問いに後藤の表情はいっぺんした。

なにか覚悟を決めた様子だった。


「福ちゃん…福ちゃんは本当に分からないの!?福ちゃんが私にしたこと、あんな事したのに、都合の良いように記憶書き換えないでよ!」


さっきまで冷静だった後藤は感情を露わにして激昂した。


福ちゃん?

一体どうなるんだ?


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る